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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
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第24話 その顔には見覚えがあった——

 その時、こちらにむけられた感情のない目のなかに、おそろしいほどの怒りに(たぎ)る視線をみつけた。もうノアの感応力に頼らずともわかった。

 この絶望の中にあって、これだけの怒りを発露できることがレオンには信じられない。


「そこの少年!」

 レオンは牢の奥を指さした。檻の前にいた人々がその方向に目をむけた先に、少年が立っていた。

「うわぁぁぁ」

 すぐ真横にいたノアが悲鳴をあげると、腰が抜けたようにドーンと尻餅をついた。

 

 その顔には見覚えがあった——。

 あの時串刺しの森で、杭に突き刺されながらも、まだ生きながらえていた少年だった。

 途切れることがない痛みと苦しみに悶絶しながら、緩慢でありながら絶対に避けられない死を思い、悲しみと悔しさに落涙したあの表情が頭をよぎる。

 少年はゆっくりと、レオンのほうへ近づいてきた。

 ふいに、死者が蘇ってきたような錯覚に襲われた。おもわずからだがのけ反り、あとずさりそうになる。

 だが、ロルフがそうさせなかった。いつの間にか背後にまわったロルフは、レオンの背中に手をあてがい、後ずさりさせまいとしていた。

 おもわず振り向いて、ロルフを見たレオンは驚愕した。

 ロルフは牢屋の奥を鋭い視線で見つめていた。が、その目にストイカとおなじような狂気が宿っているように、レオンには見えた。


「この子なのかい?」

 ロルフが冷たい石畳に尻餅をついたままのノアに確認した。ノアは震えるようにして、頭をガクガクとさせて頷いた。ロルフはストイカに尋ねた。

「ストイカさん。この子は?」

「その子は『イェニチェリ』と呼ばれる精鋭暗殺隊の訓練兵です。ブルガリアのイスラム街に潜んでいました。名前はジグムント……。メフメト二世がたいへん目をかけていた兵士だと聞いています」

「なるほど……ね」

 ロルフはそう言うと手を鉄柵のなかに伸ばし、目の前の少年の頭の上に手のひらをかざした。

 その手からたちまち、チカチカとした光が(またた)く。

 と、少年の頭上に顎髭をたくわえた老人の顔が浮かびあがった。レオンには要引揚者とされる男の姿だとすぐにわかった。

 老人がなにかを言おうと口を開きかけたが、すぐにロルフは手をひっこめた。老人はひと言も発することなく、少年の頭の中にすっと消えていった。


 ロルフはゆっくりと振り向くと、レオンとノア、そしてマリアを見て、ドイツ語で言った。

「ミッションが判明したよ」



「メフメト二世を殺せ、だ」

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