第21話 誰も帰ってこれない地下牢
牢は30メートル近い尖塔がそびえるその地下9メートルもの下にあった。
広大なスペースを確保した地下牢は、地上の城全体の重みに耐えられるよう、ローマ式アーチで堅固につくられていた。房はアーチの橋梁ごとにくぎられており、罪人や捕虜を収監する部屋だけではなく、独房や拷問専門部屋まで多彩な部屋が用意されていた。
一年ほど前にはここに地主貴族たちが閉じこめられていた。
イスラム教徒と通じて商的流通を寡占し、専横的なふるまいで国王を傀儡として、我が物顔で国を牛耳った地主貴族たち——。
王位を継承したヴラドは自分の父親をも葬った彼らを許さなかった。ひそかにその強大な力に対抗できるよう兵や財を集めると、あるとき一気に反攻にでた。
どれほどおおくの国王についたかを自慢しあう地主貴族を、国家反逆罪で逮捕して、この地下牢にぶち込んだ。
このときの逮捕者は50人ほどであったが、その家族をふくむ一族郎党までが有罪となり、その数倍もの数が街の広場で串刺し刑にされ晒された。
そのためこの国のだれもが、牢獄に投獄されたものは、生きたまま串刺しにされることを知っていた。
だがその牢獄がどこにあるかを知っているものはほとんどいなかった。
知るはずなかった。
この牢獄に入れられたものは、生きて戻ってくることはないのだから……。
もうすぐ夏が訪れようかという季節だというのに、ひんやりとした空気が地下のレンガの壁をつたわってきた。だが、それと同時に糞尿の悪臭やえも言えぬ饐えた臭いがおしよせてきた。
レオンはすぐさま鼻と口をおさえた。前回のような醜態はさらすわけにはいかない。
だが、ノアはからだをくの字に折って、頭を下にして嘔吐きそうになっていた。
「未来人は臭いには弱いようですね?」
ストイカが興味深そうに訊いた。
「すみません。ぼ、ぼくはぁぁ、そういうのを強く感じる能力が強くてぇぇ」
ノアは苦しみながら、そう言い訳をしたが、それ以上ことばがでなかった。
「ストイカさん。彼のことは気にしないでください。じきに馴れます」
ロルフがストイカに弁明すると、先にすすむよう手で促した。ストイカはノアのほうに気を配りながらも、そのまま牢のほうへむかいはじめた。
牢のなかには多くの老若男女が収容されていた。ひとつの房に詰め込めるだけ詰め込んでいるようで、何人いるのか把握できない。牢屋のなかには兵士たちだけでなく女性や老人、子供がまじっていた。レオンはとまどいのあまり反射的にストイカに尋ねた。
「なぜ女性や子供がいるのですか?」