第20話 要引揚者を見つけました
「要引揚者を見つけましたぁぁ」
ノア・ツイマーマンはヴラドに用意してもらった客室に入るなり、ロルフとレオンにむかって報告した。
「なんと、この城の真下、地下室に気配を感じるよぉ」
「へえ。すごいわね。あたし、ナンにも感じないわよ」
マリアが感心するように言った。
「見くびってもらわないでくれるかなぁ。ぼくって『サーチャー』としての能力は、誰にも負けない自信があるんだからぁぁ」
「ふうん。いいんじゃない。自信があるっていうのは。あたしも『ウォリアー』の才能はすこしはあると思ってるの」
すこしはぁぁ——?。
ノアは先ほどマリアがヴラドに斬りかかった様子を思い出した。
一瞬にして『カッツバルゲル』を具現化し、目にもとまらないスピードで首元に刃をつきつけた、あの敏捷な身のこなしが『すこしは?』なのか……。
あの年で国内有数のエリートだというのが、そして学長がことのほか可愛がっているのもわかる。
けっして自分の姪だから、なのではない——。
「どうやって地下にいけるってんだ?」
レオンがすこし気色ばむような口調で言った。ノアはその圧にすこしムッとした。
「レオン、まぁまぁ、落ちついて、落ちついて。それを今からみんなで考えようじゃないのさぁ」
ロルフがなだめるように言った。
「考えても仕方ないんじゃないかしら。あのストイカっていう人にお願いしてみるのが、早いんじゃない。地下を見せて下さいって」
「そんな直接的なぁぁ。そんなのうまくいきっこないよぉぉ」
「うまくいくわよ。そうでしょ、ロルフ。ま、最悪の場合は私たち流でやるけどね」
レオンはマリアの提言を聞き逃さない。
「マリア、なんだよ。その私たち流って!」
「レオン。決まってるでしょ。力ずくよ、力ずく」
マリアは邪気もない笑顔を浮べた。が、それがあまりにも嬉々として見えて、ノアはぞわっとした。
もしかしたら、このマリアもヴラドと同種の人間なのではないか——。
行為や感情の振り幅があまりにもおおきい。オール・オア・ナッシングとでもいうべき考え方だけで、落とし所や中庸という概念が欠落しているように思える。
マリアの提案を受けてロルフが交渉してみると、意外にあっさりと許可がおりた。案内人は軍事監視官のストイカ将軍が引き受けてくれたが、ヴラドは姿をあらわさなかった。