第19話 VRゲームと前世の記憶のダイブ、どうちがう?
レオンはこの時代から抜けだしたくて仕方がなかった。早く現代に戻ってVRゲームの世界に浸っていたいと、こころの底から願っていた。
むかし友人の誰かに聞かれたことがあった。
『前世の記憶のなかにダイブするのと、VRゲームに没入するのとなにがちがうのかい』
『なにもかもさ』
レオンはそう言い放ってから続けた。
『VRと違って、五感そのものが実際とおなじなんだ。視覚と聴覚だけじゃない。嗅覚、味覚、触覚もが、まったくおなじなのさ』
『じゃあ、その世界で刺されたら、現実とおなじように痛い?。いや、下手すると死んじゃう場合があるのか?』
『あぁ、たぶん痛い。でも実際に刺されたことはないよ。でもこの世界ではぼくらには「神の力」と呼ばれる特別な才能を授かるからその痛みは現実のものとはちがうのさ』
『それはゲームでいうところの「チート」みたいなもの?」
『半分当たっているかな。それを使いこなせる能力があって、はじめて発揮できるからね。武器や道具を自在に出現させたり、人間離れした動きができたりね』
『すごいな!。きみはなにができるんだい?』
『ぼくはディフェンス専門でね、だれも真似できないほど強固なシールドを作れるのさ。世界レベルのね』
そう言って胸をはった。
だが、いまその能力があることが恨めしく思えてしかたがなかった、
尋常ならざる恐怖の時代。
ここが脳内の仮想空間であると認識してもなお、恐怖から逃れられない。
自分とおなじ人間が積み重ねてきた『歴史』なのに、そこに『魔』が潜んでいる。そしてその『魔』が凶刃となって、自分たちを無残に切り刻もうと、虎視眈々と狙っているのがわかる。
だからこそ逃げるわけにはいかなかった。
アッヘンヴァル学長から、あなたたちは神から試練を与えられたのだ、と諭されて、再ダイブに同意したのだ。それは失敗だったという気持ちばかりが湧いてでてくるが、それでも自分に課せられた任務を思いだして、心を奮い立たせるしかなかった。
はたして自分は活躍できるのだろうか……。
自分の能力はこの時代にマッチしているものだろうか……。
天才ロルフ・ギュンターの前でなにかしくじりをおかしはしまいか……。
考えれば考えるほど、不安がこころにもたげあがってくる。
そのなかでもなによりも、その天才が一目をおいているマリア・フォン・トラップという少女に、自分たちの自信を打ち砕かれはしまいか。
それが一番、怖くてならなかった——。