表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜
370/932

第18話 未来の独裁者があなたの名前を騙った

「吸血鬼!。どういうことです?」

 ストイカが抑制した声で尋ねた。ヴラドが手でそれを制してマリアに聞いた。


「マリア、どうしてそのようなことになるのかね」

「あなたが残した残酷な逸話とこの土地の伝説を元にして、ある作家が、夜な夜な人の生き血を求めてさまようモンスターの話を書いたの。その本のタイトルが『吸血鬼ドラキュラ』」


 ざわっと室内に憤りの空気が流れる。

「なんと腹立たしい。我が殿(マリアタ)を化物として描くなぞ」

 ストイカが怒りを隠せない様子でマリアをにらみつけた。

 マリアは未来から来た証拠のひとつも教えてやったのに、という思いが強かったので、思いがけない反発の空気に、肩すかしをくらった感じだった。


「ロルフ、マリアの言ったことは本当かね」

「えぇ、まぁ……。ですが、けっしてあなたのことを(おとし)めているのではなく、あなたの残酷な行いと、人里はなれた場所に建つ城、そしてこの地に残る死霊伝説から想像された空想話です」


「ではわたしは未来では化物として、名を残しているだけなのかね」

「いえ、それはちがいます。あなたはルーマニアでは英雄として称えられています」

「英雄……だと?」

「はい、イスラム教徒から西方公教会(カトリック)の領地を守った英雄として……」

「カトリック?。わたしらは東方正教会(オルトドックス)だ」

「はい。それでもキリスト教の領地を守ったことはまちがいなく、カトリック教会からも認められています」

 ロルフはわざとらしく大袈裟なジェスチャーを交えながら言った。ヴラドの心証がよくなるようにという配慮なのだろうとマリアは思った。

 ヴラドの歓心をかうのに協力しようと、マリアは先ほど図書館で調べたドラキュラの知識を披露した。

「ホントはね、あなたの活躍って、あまり知られていなかったの。でもそれを知ったその当時の王様が、ルーマニア中に広めたの」

「それは、まるで、その王がわたしの活躍にあやかろうとしたように思えるが?」

 ヴラドが厳しい目をマリアにむけた。思いがけない反応に、あわててロルフのほうに助けをもとめたが、ロルフも叱責するような目をこちらにむけてきた。


 どうやら余計なことを言ってしまったらしい——。


「あ、いや、でも……。それでドラキュラのおじさんの名誉は回復したのよ」

 マリアはあわてて取り繕ったが、ヴラドの機嫌はなおりそうもなかった。


「その王はどういうヤツだ?」

 ヴラドはマリアではなくロルフにむかって、怒号まじりの質問をぶつけた。

「はい。その者は王ではありません。平民でありながら独裁者になった、チャウシェスクという男です」

「平民がか……。そいつはどうなった?」

「その独裁者、チャウシェスクは、あなたを英雄に仕立てて人気取りをしましたが、クーデターをおこされ、夫人と一緒に処刑されました。奇しくもここトゥルゴヴィシュテで。一節によれば、ドラキュラ城……いえ、アルジェシュ城に落ち延びようとしたらしいです」


 ヴラドがすこし口元をゆるめた。

「処刑……。串刺し刑かね?」


「いえ。銃殺です。鉛の弾で穴だらけにされました」

 ヴラドの顔が曇った。


「銃殺?。それでは苦しまないではないか」

「はい。未来では苦しませて死なせるのは、人道的ではないとされています」


 ヴラドは話に突然興味をうしなって、見切ったように言った。


「それはつまらん刑だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ