第12話 そう手っ取り早い方法だ
「あら、ロルフ。それはあなたが決めるんじゃないの?」
そう指摘されて、ロルフはついマリアにサルベージの方針を相談していたことに気づいた。あまりにも無意識のなかでこぼれていた、みずからのことばに自分でもおどろいた。
「あ、いや、ごめん、ごめん。考えこんでたら、ついマリアちゃんに……」
「あたしは手っ取り早いやり方知ってるわ」
「手っ取り早いやり方?」
「ええ。要するにあたしたちは、ヴラド・ドラキュラに会えればいいのでしよ」
「どうするつもりサ?」
「どうするって、こうするの」
そう言うと、手の平の上にあっと言う間に光の玉を呼び出した。小さいがとても力強い光。月明かりだけの暗い夜道が、とたくに明るく照らし出された。
が、マリアはそれをそのまま上空へ放り投げた。その玉はするするっと空へ浮きあがっていくと、百メートルほどにも達したところで、パッと弾けた。それはまるで花火のようで、大きな光の傘がひらいたかと思うと、一瞬遅れて『ドン』という大きな音がして、あたりの空気を震わせた。花火はバチバチと光の雨を降らせながら下に落ちていく。
真夜中の花火ショーはそれでおわりだった。
すぐに夜の帳がおりてきて、ふたたびあたりは暗闇につつまれた。
「な、なにを、なにをしたんだ」
声を荒げたのは荷台にいたレオンだった。マリアの不可解な行動を責めるような口調だった。
「なんにも起きないじゃないかぁぁぁ」
今度はノアが文句をつけた。レオンの非難とはまったく正反対のクレームだった。
ロルフはマリアがやったことに気づいていた。自分でもその方法を考えなかったわけでもなかったからだ。
あまりに短絡的で、それでいて最速で最善の解決法——。
そう手っ取り早い方法だ。
だがたとえ思いついても、容易には行動にうつせない方法でもある。
これが経験の差か……。
ロルフはまじまじとマリアをみた。
精神世界へのダイブの第一人者として、若くして『特任教授』という肩書きこそ戴いていたが、ダイバーとしての資質も経験も、とっくに抜き去られているのではないかという思いが胸に去来する。
この世界でふるえる能力は、世界レベルで抜きんでている確信があったが、いつかその地位を脅かす存在になるかもしれない……。
なんておそろしい子だ——。
マリアが手で額の上に庇を作って遠くを見ながら、ワクワクするような表情で言った。
「ロルフ、そろそろ準備してくれるかしら。もうすぐワラキア軍がわたしたちを引っとらえにくるはずだから……」