第11話 この任務自体そのものが人権無視も甚だしい
マリア・フォン・トラップ——。
ロルフ・ギュンターはこの少女と過去に何度か潜ったことがあった。
ドイツの『ダイバーズ・オブ・ゴッド』の精鋭が集まる、学生の合同訓練で最年少ダイバーとして参加していた。いや、それだけではない。ヨーロッパの全体の精鋭ダイバーの合同訓練の場にも招集されていた。
そこでももちろん最年少だった。
だがマリアはヨーロッパで一番の最年少ダイバーであるだけではなかった。
ルーキーの中ではもちろん、ベテランダイバーに負けないほどの屈指の能力をもっていた。エラ・アッヘンヴァル学長がこの姪っ子をことさらに気にいっているのもよくわかる。
いや鼻高々であってもなんら不思議ではないだろう。
だがロルフが一番興味をひかれたのは、レオンとノアが気がふれんばかりにおののいたヴラド公の串刺し刑の惨状を目のあたりにして、怯むどころか高笑いしそうなほどに、余裕があったということだった。
いくつもの修羅場をくぐってきたと聞いても、そのように冷静でいられる胆力を簡単に身につけられるとは思えない……。
もしかしたら、なにかが麻痺しているのかもしれない……。
ロルフはゾクッとした。
人の命を救うために、その能力を持てるものに頼らざるを得ないのはたしかだ。エラ・アッヘンヴァル学長が、その才能を育てようとしたのも間違いではない。だが、まだ初潮をむかえるかどうかという少女に、そこまでの経験させていいものだろうか……?。
この任務自体そのものが、人権無視も甚だしいのではないかという疑念がよぎる。
ふいにうしろの荷台で声があがった。レオンとノアだった。
「どうしたのサ?」
ロルフは正面に目を向けたまま、反射的に声をかけたが、答えたのはマリアだった。
「たぶんこの森を抜けちゃうから怖いんじゃないかしら」
「怖い?」
「だって、すぐそこが串刺しの森だったんだもの」
マリアはそう言いながら、正面を指さした。ロルフは指さされた方向を見た。だが、月明かりに照らされたそこは、遥かかなたまで続く広い平地がひろがっているだけだった。
「ここなのか?」
ロルフは目の前にひらけてきたその風景をみながら、思わず呟いた。
「そうよ。さっききたときはこの広い野原いっぱいに、串刺しされた人の杭がたくさん刺さっていたわ」
マリアは淡々と情景を説明すると、そこから推察される客観的事実も述べた。
「よかった。ちゃんとすこし前にこれたみたい」
「で、これからどうすべきかねぇ?」




