第10話 度し難い!!
「それだけじゃないわ。エラ伯母様に連れられて行った中国は最悪だった。あの西太后っていうオバサン。何千個所も切り刻んで、しかもそれを自分で食べさせるっていう拷問は最悪だったわ。たぶん人間が考えたなかで一番残酷なんじゃないかしら」
「ふーーん、それでもよくもまぁ、串刺し刑をの森をみて驚かなかったね」
マリアは片目だけをこちらにむけて答えた。
「驚いたわよ。だってあんなにいっぱい刺さってるの、はじめて見たもの」
「なによ。驚いたの、そっちのほうなの?」
ロルフはマリアがそう嘯いたのを、すこしあきれる思いでいた。2万人もの串刺しの森をみたら、自分でも冷静でいられるか自信がもてない。
自分の横にいるこのちいさな女の子は、並々ならぬモンスターだと、あらためて思い知らされる。ロルフはその思いをぐっと呑込んで、薄っぺらい口調でマリアをほめそやした。
「マリアちゃん、すっごおい。タフだねぇ」
「こんな歴史。あたしにとっては、ただの『生々しい』ヴァーチャル・リアリティ・ゲームっていうだけよ」
「ところで、本当にふたりは大丈夫?」
マリアがおおきく伸びをしながら訊いた。
「大丈夫だろ……。たぶん。ちょいと刺激が強すぎただけサ」
「まったく……、【度し難い】」
「ど……し……、マリアちゃん。それなに語?」
「日本語よ。あたしのお気に入りのアニメにでてくるの」
「は、まだ日本の『カートゥーン(子供向けアニメーション)』見てるんだ」」
「アニメよ、ロルフ。カートゥーンじゃないわ」
ロルフはマリアの脅すような、あまりに真剣な口調に驚いた。
「ごめん。よくちがいがわからないんだ。で、その日本語、どういう意味よ?」
「すくいようがない、ってーいう意味よ」
「ひどいな。ロルフもノアも臭いにやられただけさ。すこし落ち着けば問題ない」
「ほんとかしら?」
「あぁ。彼らは信仰心が厚いンだ、今回の苦難は神からの試練だと思えば、難なく乗り替えられるはずさぁ」
「信仰心……?。そんなのがこの世界で役にたつとでも?」
「そう言わないでくれないかな。これでもそーいうのを大学で教えてンだからさぁ」
「ふうん、なんか年寄り臭いこと教えてるのね。あなたまだ若いんでしょう。たしか20……」
「4。24歳だ。優秀だったから飛び級して……」
「歳なんか関係ないんじゃないかしら。充分おじさん臭いわよ」
「マリアちゃん、ひどいなぁ。キミくらいの歳だと、成人したひとはみんなおじさんに見えちゃうモンさぁ」
「ロルフ、そうやって説教しようとするところが、年寄りだってことよ」
マリアはそれだけ言うと、胸のまえで腕組みをしたまま目を閉じた。