第9話 あら、歴史にレイティングでもあるのかしら
ロルフ・ギュンターはエラ・アッヘンヴァル学長の心配が痛いほどよくわかった。
そもそも敬虔なクリスチャンであることに重きをおいて、経験が浅いレオンとノアを行かせたのが多少無謀であったのは確かだった。だがここまでほうほうの体で引き揚げられるなどとは思っていなかったはずだ。まさか『赴任地(そういう言い方をエラは良くしていた)』が中世で、しかもワラキアなどというハードな場所になったのは、さぞや予想外であったであろう。
おなじ時代への再ダイブとなれば、本来ならば余裕がでてくるものだが、今も馬車にゆられながら、二人はどこか元気がない。いたしかなくロルフが御者を買って出て、ずっと真夜中の森を走らせている。ロルフは首だけをうしろにむけて訊いた。
「レオン、ノア、大丈夫かい」
「ギュンター教授。ご心配をおかけします」
レオンがすぐさま返事をした。強い口調だったが、少々虚勢を張っているように聞こえた。
「教授なんてかしこまるなよ。ロルフでいいさ」
「きょ、いえ、ロルフさん。ぼくらにあんまり気を使わないでください」
レオンが恐縮しながら言うと、ノアもすこし緊張しながらロルフに釈明した。
「ロルフさん、ぼくらは大丈夫ですぅ。さっきはすごい臭いにやられただけですから」
「そうなの?。それならいいけどサ……」
ロルフはそれだけ言うと自分の隣の席で腕組みしたまま、眠っているマリアのほうに目をむけた。ロルフはマリアが眠っているふりをしているとすぐに見抜いて声をかけた。
「で、マリアちゃんはなんともないわけ?」
「なにが?」
「だって、けっこうエグかったって思うけど?。キミみたいな年齢の……」
「あら、歴史にレイティングでもあるのかしら。『12(日本のPG12)』とか『18(日本のR18+)』とか……。そういうのがあるなら教えてよ」
「あ、いや、そんなモンはないけど」
「そうよね。人類の歴史はいままで弱者を容赦してくれたことなんてない。『いつ』の『どこ』を切り取っても、子供は目をおおうようなもばかり見せつけられてきてる」
「まったく口さがないねぇ。でも説得力、半端ない」
「ロルフ。あたし、あなたと何回か潜ったわよね。あのときだって、けっこう残酷なもの見せられたわ」
「ン、まぁーー、そうかもねぇ。とくにあの中世の魔女狩り裁判とかは、まぁ……」