第6話 To be or not to be, that is the question
セイが森のなかを走り抜けていると、すこし開けた場所にいきあたった。そこには大きなテーブルが置かれ、そのまわりではお茶会をやっている『三月うさぎ』と『おかしな帽子屋』がいた。セイは三月うさぎに尋ねた。
「きみたちは、アリスがどこに行ったか知ってるかい?」
「アリスって?。おいしいのかい?。お茶菓子に最適だとうれしいな」
三月うさぎが目の焦点があっていない目つきで、セイの顔をのぞき込みながら言った。
「ちょうどお茶の時間なんだ。邪魔せんでもらおう」
おかしな帽子屋が怒るような口調で言った。
「ここはいつだってお茶の時間なんだ。この帽子屋が『時間』と喧嘩して以来、『時間』がいうことをきいてくれないのさ」
「ふん、『時間』の言うことなんかきいてたら、日が暮れちまうだろうが」
「そうだね。おかげでここではいつだってお茶が楽しめる」
とうれしそうに言った三月うさぎだったが、セイの耳元に手をあてがうと本音を囁く。
「ま、それ以外はなんにもできないんだけどサ」
「聞こえているぞ。三月うさぎ」
「ははぁーー。なんにもできないこと万歳!!」
セイはさすがにうんざりした気分になった。
「口が減らないやつらだな。さっさと浄化しちゃおう」
セイが目の前の二体のイカれた『トラウマ』を浄化しようと拳を構えた。
「やれやれ、『時間』に我慢できない愚か者だな。わしらを相手にしても『時間』の思うつぼだがね。セイ、あんたは、どれくらい『時間』を無駄にするつもりかね?」
おかしな帽子屋が紅茶を注ぎながら、したり顔で森のほうに顎をしゃくった。
セイがこぶしを振りあげかけたまま、帽子屋が促したほうに目をむけた。
空をおびただしい数のドードー鳥や、メガネ鳥が埋め尽くしていた。広場の手前には、いやというほどの数の『やまね』がうろちょろして、何匹もの『白うさぎ』が重力を無視したまま、懐中時計を見ながら空中を走りまわっていた。木の上や根元には『大いも虫』だけでなく『中いも虫』らしきものが、うじゃうじゃと蠢いている。
「マジかぁ。なんでこんなに湧いてでてるんだ」
三月うさぎが、いびつな顔を寄せて、セイの耳元で囁く。
「そりゃ、きみを歓迎しているからに決まってるだろ」
「うそだーー。邪魔してるだけじゃないか」
「セイ、邪魔してるのは君さ。ぼくらの『お茶の時間』をね。ぼくらはいつだって『お茶の時間』なんだ。おかしな帽子屋が『時間』と喧嘩したおかげで、『時間』がへそを曲げちゃって……」
「さっき、聞いたよ!」
セイが三月うさぎとくだらないやり取りをしている間にも、『トラウマ』は続々と増えていった。
『くそっ、こりゃきりがないぞ。なんとか一ヶ所に集められないか……』
セイが帽子屋にむかって叫んだ。
「帽子屋、ここにいる連中全員でお茶会をしたい。やったほうがいい?、やらないほうがいい?(TO BE?、OR NOT TO BE?)」
「それは問題だ(THAT IS THE QUESTION)」と帽子屋が答えると、「そう、こいつは問題だね(THIS IS THE QUESTION)」と三月兎が追従する。
「なるほど……『問題(QUESTION)』か……」
セイは両手をメガホンのように掲げると、森のほうにむかって大きな声で叫んだ。
「時間の単位の中で一番、愚かな(Weak)ヤツはだ〜れだ」