第3話 それ森じゃないわよ
マリアはおおきくため息をついて「森ね……」とひと言漏らすと、ゆっくりと荷台の上でたちあがった。
「じゃあ、あなたたちに見えるようにしてあげるわ」
「見えるように?」
レオンは虚をつかれて、間の抜けた復誦を思わずしてしまったが、マリアはまったく気にもとめず、手のひらを上にむけ力をこめた。みるみる手のひらの上に、暗雲が渦巻きはじめた。不気味な黒い雲のなかに小さな火花が散る。レオンがそれが火花ではなく、小さな稲妻だと気づいたときには、手の上には直径十センチほどの光の玉が浮かびあがっていた。
レオンはその玉から放たれる眩い光に見入られた。これほどの光の玉をやすやすと現出させたことに驚きを隠せなかった。これほどの力を使えるのは、自分の知る限り、学園長のエラ・アッヘンヴァルと、天才ロルフ・ギュンターくらいのものだ。
いつの間にかレオンはノアと顔を見合わせてしまっていた。
「ねぇ。レオン、ノア。あなたたちダイブの前になにか食べた?」
「なにを食べたか?。どういう……」
「まぁ、いいわ。頼むから戻さないでね」
マリアはそれだけ言うと、手の上に浮いている光の玉をそのままふわっと上に放り投げた。それほど力をこめた風に見えなかったが、光の玉は驚くほど上空にまで昇っていった。
レオンはその軌跡を目で追った。光の玉はちいさな点にしか見えないほどまであがったところで、バーンとはじけた。それはまさに照明弾だった。
目も眩むような閃光が上空に広がり、あたりが煌々と照らし出された。
森を抜けて木がまばらになってきたと思っていたが、そこは実は長さ1キロ、幅3キロもある広大な平野だった。
その平野に無数の杭が打ち込まれて、森のように見えていただけだった。
そしてその杭には、すべて死体が突き刺さっていた。
あたり一面を埋め尽くしていたのは、串刺しされたトルコ軍兵士の死体だった。
2万3809体の串刺し死体で作られた森——。
マリアが得意げに笑みをむけた。
「ノア、潜んでるんじゃないわ。さらされてるのよ。串刺しになってね」
「うわぁぁぁぁぁ」
気づくとレオンは大きな悲鳴をあげていた。
自分で自分の鼓膜を破ってしまうと思うほどの大音量。咽の奥を削らんばかりの音の塊が、口から吐き出されていく。その声につられるようにノアが「ひぃぃぃぃ」という甲高い悲鳴をあげる。
が、レオンはたちまち息が続かなくなった。あわてて息を吸い込むと、突然嗅覚が復活した。
『臭いがぁぁ——』
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