第231話 オリンピックに出場してたんですわ
「フルチンって、マリア、それ、どういうこと?」
「ばっちり見させてもらったよ。ずっと凝視してた。なかなかのもんだった」
「なかなかって……」
かがりは絶句した。そんなものは前世から戻ってくるなり口にする話題ではないし、なによりその『なかなか』が何を意味するのかわからない。腹立たしいことに、かがりの頭に『なかなか』に続く、ワードが勝手に浮かんでくる。
大きさ・色・形……。
気がつくと、顔が真っ赤になっていた。あわててマリアにむかって大声をあげた。
「マリア、聖は真っ裸でなにしてたのよ!」
「そりゃひとつしかねぇだろ」
マリアがしたり顔で流し目を送ってきた。思わずドキリとする。
どうせマリアが意地悪しているとわかってはいたが、ドキドキがとめられない。
「ひ、ひとつって何よお」
動揺のあまり、声が浮ついている。
「オリンピックに出場してたんですわ」
ふいに奥側のプールからエヴァがそう言った。エヴァはしたたる『念導液』をぬぐおうともせず、ゆっくりとからだを起こした。
「おい、エヴァ。ネタばらしが早ぇーぜ。もう少しかがりをからかおうって思ったのに……」
「オリンピックに出場ってどういうこと?」
「そのままですわ。聖さんがオリンピックに出場したんです。2400年前のね」
「オリンピック出場って……、あんな超人パワー使ったら、勝負になんないでしょう」
「それがね、力がうしなわれて、まったく使えなかったんですの」
それを聞いて、かがりはデータモニタに目をむけた。脳内物質の分泌波形のログデータを見る。アドレナリンが強く分泌しているようにとらえていたが、よくみると不安を示すノルアドレナリンも相応にでているのに気づいた。
聖ちゃん、追い詰められてた——?。
「ま、それでも、三戦して二勝したがな」
マリアがタオルでからだをふきながら言った。
「その代わり、聖の奴、かけっこで負けやがった」
「でもボクシングでは優勝しましたわ」
エヴァが用意されているタオルを手にとりながら、感心した口調で口を挟んだ。かがりはなにげないそのひと言にまた驚かされた。
「ボクシング?。聖ちゃん、ボクシング戦ったの?」
「あぁ、しかも二メートルもあるヘビー級の野郎相手にな。まぁ、あれは見事だった。さすがボクシングをやっているだけはある」
「ちょ、ちょっと、ヘビー級の選手に勝てるほど強かなわよ。聖ちゃん、いつも大島さんに注意されてばっかなんだから」
「でも勝ったんだよ。2400年分のテクニックのおかげでな……」
「それにオリンピックったって、規模だけでいえば市民大会くらいなもんだけどな」