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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第229話 さようならオリンピュア、さよならわたしの冒険

「ご心配なく。あたなの親友のクリトンが面倒をみてくれます」

 ソクラテスは深々と安堵のため息をついた。

「そ、そうか……。クリトンが……」

「ソクラテス様。あなたの名声はもうこのあと、一点の曇りもなく未来へ語りつがれます。ですからぜひ残りの人生は……」


 そのとき、タルディスの頭上から光があがっていくのが見えた。

 

 その光のなかにジョー。デレクのからだが浮き上がっている。精気がジョー・デレクのまわりをおおいはじめ、ゆっくりと彼の精神体がゼウス神殿の天井にむかって昇っていく。

「ソクラテス様、ヒポクラテス様、そろそろお時間のようです」

「未来に……、あなたたちのいた世界に戻られるのですね」

 ヒポクラテスが名残惜しそうに尋ねた。

「ああ、戻らせてもらう。だが、ヒポクラテス。オレはこの世界、充分満足させてもらったよ」 

 そう言ったマリアの足が床から浮きはじめた。

「わたしもたいへん楽しかったですわ。まぁあんなにいっぱいの怪物と戦う羽目になるとは思いませんでしたが……」

 エヴァがそう言うと、続けてゾーイも最後の挨拶(あいさつ)をかわした。

「教科書で習うような賢人と会えて本当に光栄だったよぉ。2400年後の未来人から見ても……」

 ゾーイは降参とばかりに肩をすくめてみせて続けた。

「まぁ、ほんとうに賢人だったねぇ」


 続けてセイがすこし苦笑いをしながら言った。

「まさかオリンピックに参加するはめになるとは思わなかったけど、みなさんにずいぶん助けられました。それと、そう、もうすこし勉強します。あなたがた賢人にすこしでも近づけるように……」


 そして最後にスピロが総括するように言った。

「賢人の皆様をお相手するのは、本当に骨が折れました。わたくしたちが未来の人間で、2400年分の知識があるという優位性(アドバンテージ)があったにしてもね。さすが歴史に名を残すわけです。参りました」


 五人のからだがゼウス神殿の二階の桟敷(さじき)まであがっていくと、ソクラテスが下から見あげて叫ぶように言った。


「未来からきた子供たちよ。そなたたちと約束しよう。わしはアテナイに戻ったら、クサンティッペと三人の子供たちへこころの底からの愛情を注ぐ。そして働いてわずかばかりでもお金を残す。その約束をかならず守ってみせようぞ」


 スピロはソクラテスに慈しみの表情を浮かべて言った。

「えぇ、ぜひともそうなさってください、賢人ソクラテス様……」


「最後くらいは凡人として生きてみるのもわるくないと思います」


 ソクラテスはスピロを見あげたまま相好を崩した。

 いついかなるときも気難しい様で、厳めしい顔をしていたあのソクラテスの満面の笑みがみられて、スピロは嬉しかった。こころの底から満足感がこみあげてくる。


 スピロは眼下に遠ざかっていくオリンピュアの風景を見渡した。俯瞰(ふかん)から見おろす聖地の姿は、現代世界からすれば、電光掲示板や大型ビジョンモニタのような、便利なものも派手なものもなにもなかったのが、とても荘厳で神々しさにあふれてみえた。

 その昔、神々がここで競技を競いあったのだ、という伝説すら、本当にあったことのように感じられる。


 このすばらしい光景を目に焼きつけておきたい。

 スピロはふいにそんな気持ちに駆られた。

 だが同時に、自分はもう二度とこのような歴史の世界に触れる機会はないのだと気づいた。


 そう——。

 ここはわたしのような『能力』のない人間がいてはいけない世界だ。

 セイ様の圧倒的な能力、マリア様の余裕の力量、エヴァ様の変幻自在の武器——。

 そしてこの三人には及ばないまでも、ゾーイの感応力と念動力は、この世界でも充分通用するすばらしいものだ。


 だが、わたくしには……なにも……ない……。


 いや、最後にこのすばらしいメンバーに巡り合えたことを感謝しよう。そしてこころ躍る戦いに一緒に参加できたことに胸をはろう。

 この思い出はわたくしの一生の宝として、誇りにおもい続けることができる……。


 ありがとう……。



 

 さようなら、冒険の日々……。

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