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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第226話 ヒポクラテスの誓い

 人々の熱狂のなかにいるタルディスを、スピロはほっとする思いで見ていた。

 エヴァがすこし口惜しそうに言った。

「これでタルディスさんは、正真正銘の大金持ちになるのでしょう。複雑な気分です」

「しょうがないだろうさ。『ウィナー・テイクス・オール(勝者が全部手に入れる)』は世の習いだからねぇ。たとえ2400年前でもねぇ」

 ゾーイがエヴァを諭すように言ったが、マリアがそれに異議を唱える。

「なぁーにを言ってる。こいつの親父の『コーマ・ディジーズ財団』は、そんなモンできかねぇほど金をたんまり持ってるんだよ。こいつはその跡継ぎだ。すでに『全部』持ってるよ」

 するとセイがふたりを仲裁するように両手で(いさ)めるような仕草をして言った。

「マリア、いいじゃないか。そのおかげでぼくらも昏睡病の人をおおく助けることができてるんだ」

「はん。その取り分はもらってないがな」

 エヴァがなにかを言い返そうとしたが、ヒポクラテスがしみじみと感じ入った様子で呟いた。

(うらや)ましい限りです。医学で人を助けるためには、どうしてもお金は必要ですからね。わたしも弟子にはしっかりと治療費は受け取るように指導していますよ」

「そうでしたね。『ヒポクラテス全集』には、患者ともめないお金の受け取り方もしっかりと記されていました」

 スピロがそのことを指摘すると、エヴァがこころの底から感心したように言った。

「さすが『医学の父』と呼ばれているだけありますね。金勘定までしっかり教えてらっしゃるとは」

「医学の父?」

 ヒポクラテスがおどろきと戸惑いを隠せない様子で呟いた。

「えぇ、そうです。あなたは未来で『医学の父』と呼ばれています」

 スピロはヒポクラテスに真摯(しんし)な目をむけた

「あの時、わたくしはさんざんヒポクラテス様を非難いたしましたが、本当はそうではありません。あなたは信じられないほどすばらしい功績を残されたのですよ。とくにあなたの掲げた医療における高邁(こうまい)な『倫理』や『姿勢』は2400年後の医師たちにも受け継がれています。『ヒポクラテスの誓い』という名前で」


「ヒポクラテスのちか……い」

「はい。能力の及ぶ限り患者の利益になることを尽くす。性別や身分の違いで差別をしない。治療のときに見聞きしたことは絶対に秘密にする。など、その理念は形を変えて、未来の医者たちの、こころの拠所(よりどころ)になっています」

「そうか……」

 ヒポクラテスはそう言うなり目を閉じて上をみあげた。

 その口は硬く引き結ばれていたが、その口元は震え、閉じた目から涙が伝い落ちた。

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