第221話 メドゥーサを殺ったのはやはりマリアさんでしたか
「ほう。貴様、ずいぶん異なことを言う。わたしがプラトンの姿に戻れば、貴様の切っ先も鈍るだろうに」
「バ〜カ。どこのだれともわからん、アンドレなんちゃら、とかいう下級悪魔を叩き切ったほうが夢見がわりい」
「ずいぶん侮辱してくれますね」
そう言いながらアンドレアルフスは体を変身させはじめた。みるみるうちにプラトンの姿に戻っていく。外見の凶暴さは消えうせ、体躯は大きく膨らんでいく。『背中の広い』というあだ名をあらためて思い起こさせる広い背中、思慮深さを感じさせる顔つきが現れていく。
「マリアさん。先ほどからずいぶん私の傀儡を手加減なしに切り刻んでくれましたね」
「てめえこそ、バカみたいに出現させやがって。クソ忙しいめにあったぞ。まあ、てめえがバカのせいで、半分くらいは石になったンで手は抜けたがな」
「なるほど。メドゥーサを殺ったのはやはりマリアさんでしたか……」
「だよ!」
「侮るつもりはありませんでしたが、想像を超えてましたよ。マリアさんも、エヴァさんも」
「子供だと思って甘くみるか……」
「いいえ!」
プラトンがエヴァのことばを遮ぎるようにして断言した。
「これでも、最善の手を駆使したつもりだったのですよ。ですがあの二人にいいように邪魔されました」
プラトンは眼下のスピロとゾーイを見おろしながら言った。
「こんなわたしのような下級悪魔に巡ってきた最高の悪運だと思ったのですがね。どうも挑む相手をまちがえたようです」
「セイは……。ユメミ・セイはどうなんだ?」
マリアはついプラトンに訊いてみた。プラトンは苦笑しながら答えた。
「どう、ですって?。マリアさんたちには気の毒ですがあれは別格です。あの人は悪魔から見ても悪夢をみているようです」
「だな!」
「ほんとうにハマリエルとウエルキエルを倒したんだとわかりました」
あまりに殊勝に白旗をあげた様子に驚きを隠せなかった。マリアは尋ねた。
「で、どうするつもりだ?」
「最後の悪あがきをさせてもらいます」
そう言うなり、デウス・エクス・マキナの右腕がものすごい勢いで、ピストル・バイクを横から薙ぎはらいにきた。エヴァはすぐさま大きく車体を傾けそれを避けたが、横からの拳圧は強くマリアは後部シートから引き剥がされた。
マリアのからだは一瞬、宙を舞ったが、後部シートに剣を突き立てて、ぎりぎりのタイミングで押しとどまった。