第220話 アルキビアデス様のイケメンを拝んでおこうかと
タルディスの代わりにピストル・バイクの後部シートに乗り込むと、マリアはエヴァと一緒に『デウス・エクス・マキナ』の元へむかった。ギイギイと可動部分をきしませながら、『デウス・エクス・マキナ』はまだ地上に散らばった部品を取り込んで巨大化していた。すでに特種な構造をしたスタートゲート『アフェシス』も部品として取り込まれていて、残ったのは、スタート部分にある青銅のイルカの飾りと祭壇の上の鷲の飾りくらいになっている。
マリアは右肩にいるアンドレアルフスを一点に捉えていたが、意に反してエヴァはまずは左肩にいるアルキビアデスのほうへ向かった。
「おい、エヴァ、どういうことだ」
「あら、さいごにアルキビアデス様のイケメンを拝んでおこうかと……」
「かーっ、あいつは幽霊だぞ。この時代には存在しないって……」
「存じていますわ。でもイケメンはイケメンです」
バイクが左肩のアルキビアデスを正面に捉える場所で浮いたまま停止した。デウス・エクス・マキナからはまだ数十メートルは離れている。エヴァがふいの一撃に備えて距離をとっているようだった。
「アルキビアデスさま〜」
「おぉ、あなたはセイと一緒にきたマリアさんですね」
アルキビアデスがチャーミングな笑みでエヴァに答えたが、名前を間違えられたエヴァがたちまちに気分を害したのが、マリアには背後からでもわかった。
「いいえ。わたしはエヴァですわ!」
「あれぇ、そうで……し……た……か」
ふいにアルキビアデスのろれつが回らなくなってきた。みるとさきほどまで見せていた整った顔がどろどろに崩れはじめていた。
マリアはうしろから注意を促そうとしたが、その前にガガガガと弾丸を発射する音が聞こえて、アルキビアデスが吹き飛んだ。そのまま下に落ちていく。ピストルバイクの前方から硝煙があがる。
「マリアさん、こちらの用事は済みましたわ」
エヴァは振り向きもせずに言った。
「イケメンでないうえに、ひとの名前は覚えていないような輩に用はありません」
「おいおい、割り切りがすぎるだろぉぉ」
マリアが思わず突っ込むように言ったが、エヴァは無言のままバイクを右肩のアンドレアルフスのほうへ向けた。
アンドレアルフスに近づくと、むこうがこちらから目を離さず見つめていることに気づいた。アルキビアデスを消し去ったエヴァを見ているのかと思ったが、どうやら自分のほうを見ているのだとマリアは気づいた。
「おい、アンドレなんちゃら。なにガンくれてやがる。オレがしっかりと引導わたしてやるから元のプラトンの姿に戻れ!」