第216話 わかった。ぼくが始末する。みんなさがって
「わかった。ぼくが始末する。みんなさがって」
セイはそう言うなり、両手を後方にひいてからバッと一気に前にふりだした。
その指揮に操られて、セイの日本刀が一気に前に並びはじめていく。手前側から腰の高さほどの位置に百本以上もの日本刀が浮いたまま、スタートゲート側にむかって並んでいく。
それはまるでプールに浮いたコース同士を隔てる『コースロープ』のようにも見える。
空中に浮かんだ刀のコースロープは、柄をむこう側にむけ、一本分の隙間を開けて次々とつながっていき伸びていく。しかも五メートルほどの間隔をあけて二本が並んでいき、ふたつのレーンを作る。
そしてそのレーンは六百メートル先のスタートゲート側の折り返し点の標柱まで伸びていった。
「囲い込んだ?」
連なる刀がフェンスとなって、いつのまにかアンドロギュノスたちを囲い込んでいるのをみて、スピロが叫んだ。
「おい、セイ。貴様ぁ、なにをするつもりだ」
嫌悪感まるだしのままの顔で、マリアが嫌々そうに尋ねた。
「簡単なことさ。ヤツラはぼくらを狙ってるんだろ。だったらぼくがヤツらを惹きつける『薬剤』となっておびき寄せるだけさ」
「まさか、Gを小部屋におびき寄せるアレ……ですか……」
上空からエヴァが言った。顔はマリア同様、しかめっ面になっている。
「あぁ、そうだね。そーいうヤツ」
「おびき寄せる?。ってこたぁ……」
ゾーイがセイの言っている意味をかみ砕くように口にした瞬間、先頭にいたアンドロギュノスが、顎まで裂けた口をめいっぱい広げて叫んだ。超音波のような怪鳥音に、ほかのアンドロギュノスたちが一斉にふりむく。その視線の先にはセイがいる。
アンドロギュノスが、刀で作られたコースを一直線に走ってきはじめた。そのかず、数百!。異形のクリーチャーが八本足を小刻みに動かしながら、こちらへ向かってくる様子は走っているという生やさしい表現ではなかった。カサカサと這いまわってくるその姿は、まさに『G』そのものだった。双頭の等身大の『G』の群れが一斉にこちらへ動いてくる。
「おい、セイ、てめえ、なに考えてやかる。あいつらをこっちにこさせてどうするよぉ」
「ああ、もう見るのも嫌です。ごめんなさい。離脱させてください」
エヴァがあわててバイクを浮上させると、マリアはあわててその下部にとりついて一緒に上昇していく。スピロはふたりの離脱っぷりに戸惑いながらもセイに聞いてきた。
「セイ様、どうされるおつもりです?」
「きまってるさ。斬るのさ」
「斬る、って、あの刀で作ったガードレールはなんのためなのさぁ?」
ゾーイが心配そうな目で訊いてくる。
「あんまりみんなが、ゴキブリ、ゴキブリっていうから、一発で刀が切れなくなる気がしてさ」
「切れなくなる……?」
「まぁ見てて」