第208話 ゾォィィ、ありがとう
ゾーイはポダルゴスの首につかまったまま、眼下をのぞき見た。
人や怪物たちが豆粒ほどに見える。ふとゴールライン上に目をやると、少女の姿がゆっくりと消えていくのが見えた。ゾーイは、はあぁっと安堵のため息が漏らしながら、ポダルゴスの首筋にもたれかかり、頬をよせると『みんな、ありがとう……』と囁いた。
四頭に馬たちが誇らしげにいなないた。
ゾーイはセイのいる御者台に戻ることにした。ポダルゴスの首を軽くなでると、うしろにからだを捻るようにしてジャンプした。ふわっと浮いたからだがまるでスローモーションのようにゆっくりと、御者台に戻っていく。
「ゾぉぉぉイ!!」
が、つま先が床についた瞬間、ゾーイはセイに抱きすくめられた。
「ありがとう。ありがとう……」
熱い思いがこもった感謝のことばとともに、セイが抱きしめるその腕にちからがこもってくる。ゾーイは男の子とハグすることはあったが、こんなに情熱的に抱きしめられたのははじめてだった。
ゾーイはドキッとした。
吐息が耳元をくすぐるほどの距離にセイの顔があった。
安堵のせいだろうか、嬉しさのあまりだろうか、すこしセイの目元は潤んでみえる。
自分の顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「なんてすごいんだ。ゾーイ」
セイは抱きついたまま、ゾーイの耳元で声をあげた。ゾーイはこみあげる嬉しさと気恥ずかしさで、どうしていいかわからなくなった。胸の高鳴りがとまらない。その胸の鼓動がセイの胸を通して伝わってしまわないのか心配になる。
その鼓動のはやさで自分の気持ちがばれやしないだろうか……。
ゾーイはあわててセイに進言した。
「セイさん、このあとどうすればいいのかい。ずっと飛ばし続けるわけには……」
それを聞いてセイがやっとゾーイを解放してくれた。
「ゾーイ。ありがとう。あとはぼくに任せて。まずは下にいる怪物どもを一掃する。だからすぐに降りてきて」
「一掃する?。下にはまだ何千ってえ怪物がいるんだよ。それを全部だなんて……」
「大丈夫さ。ヤツらは弱い」
「弱いって、たしかにマリアさんもそう言ってたけどさぁ」
「マリアが?。じゃあ、まちがいない」
「いくら弱いといってもあれだけの数だよ」
「心配しないで。こっちもそれだけの数を用意するから……」
「それだけの数……?」