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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜
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第2話 あなた、チェシャ猫さん?

「今回の依頼はイギリスからだ」

 叔父の夢見・輝男(ゆめみ・輝男)がにこにこしながら聖に言った。

 夢見・聖(ゆめみ・せい)は液晶画面のなかの被験者の映像をのぞき込んだ。どこかのベッドに横たわる、まだあどけなさが残る黒人少年が映っていた。

「叔父貴、なぜにそんなににこにこしてる?」

「あ、いやーー、にこにこなんか……」

「どうせ、クライアントがお金持ちなんでしょう?」

 横から広瀬・花香里(ひろせ・かがり)がしゃしゃりでてきた。

「あ、いや、そういうわけ……」

「お父さん、別に隠さなくてもいいわよ。研究費、稼がなきゃでしょ」

「あー、いやー、聖、悪いねぇ」

「別に。お金は大事だしね」

 聖は事もなげに言った。

「聖ちゃん、簡単に言わない。魂へのダイブって一歩間違えたら命にかかわるんでしょ」

「慣れたもんだよ」

「もーう。実際、危ない時あったでしょ」

「い、いや、無茶もなにも……。わたしだってよくわからんのだよ」

「かがりぃ。それこそ無茶言うなよ。無茶かどうか、潜ってみないことにはわからない」

 聖のそのことばに納得がいってない顔で、かがりが輝男に訊いた。

「で、お父さん。聖ちゃん、今度はなに時代に潜るの?」

「かがり。いつも言っているだろ、潜ってみないとわからんのだ」

「そう。いつだってぶっつけ本番さ。時代も場所もね」

 聖が服を脱ぎながら、かがりに説きはじめた。

 突然、真横で服を脱ぎ始めた聖に驚いて、かがりがあわてて横に飛び退きながら叫んだ。

「聖ちゃん、ちょっとぉ、ここで裸になる気?」

「え、なにか……。子供ん時から見慣れてんだろ」

「バカ言わないで。もう高校生なんだから。わたしがここで裸になったら、聖ちゃんも困るでしょ」

「いや、なんも。子供ン時とそんな変わらないし……」

 聖の視線はかがりの胸元にむいていた。

 それに気づいて、かがりはヒステリックに声を張りあげた。

「なんてこと言うのよぉ。もう、何時代なりと勝手に潜って、ちょっとくらい溺れてくればいいわ」

 というなり、そのまま出口にすたすたと向かうと、ドアをこれ見よがしに、荒っぽく閉めて出ていった。

「おいおい、いまのは聖がわるいぞぉ」

 輝男がおろおろとした表情で聖に言った。

「あぁでも言わないと、心配して離れやしないんだから仕方ないだろ」


「かがりには、ぼくに構わず『今』を一生懸命生きて欲しいンだよ」


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 目の前にふいに森があらわれた。

 牧歌的というべき、のどかな田園風景が木々越しに広がっているのが見える。今までの経験では、前世の『未練』というのは、なにかしら事件の渦中にあることがほとんどで、日常の延長のような風景は、むしろ戸惑いの対象でしかない。

『いったい、ここはどこなんだ?』


 依頼者の前世の記憶

 のなかにダイブしたセイは、自分が降り立った場所にとまどった。

 セイはあたりの風景を見渡した。あたりは森に囲まれていて、セイのいる場所はすこし開けた広場になっていた。そして、彼は一本の木の張りだした枝の上に座っていた。

『なんで、こんな不安定な場所に?……』

 ふと自分の服装をみてみると、いつの間にかワイシャツにチョッキを着ていた。

『げっ、なんだ。このカッコ』


「あなた、だあれ?」

 ふいに下から声がした。セイがあわてて見下すと、ひとりの少女がこちらを見上げていた。年のころは6〜7歳程度だろうか、裾の広がったスカートとエプロンがセットになったふんわりとしたエプロンドレスを着ている。手元に本を抱えているところをみると、木の下で読書していたらしい。

「あなた、チェシャ猫さん?」

「猫?」

「だって、チェシャ猫のように突然現れたわ」

「ボクは猫じゃないよ」

「そう。じゃあ、にやにや笑いしてみて?」

「にやにや笑い?」

 セイは意味がわからず首をひねったが、少女に言われるまま口角をあげてみせた。

「ほら、やっぱりチェシャ猫じゃない。木の枝に座ってにやにや笑いをするのはチェシャ猫だけだもの」

 どうにも話が噛みあわないのに困惑したが、とりあえずこの木の枝に座っているのが混乱のもとだと考えて、セイは枝から飛び降りた。

「ぼくの名前はユメミ・セイ。セイと呼んでくれ。キミの名は?」

「アリス。アリス・プレザンス・リデルよ」

 セイはアリスと握手をしようとして、自分のチョッキのポケットになにかが入っていることに気づいた。ポケットのなかには懐中時計がはいっていた。

 セイは懐中時計を開いて、時刻盤を見るなりアリスに言った。


「アリス。わるいけど、時間がないんだ」


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