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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第190話 手を上にあげろ。武器を渡す!

 その時遠くから声が聞こえた。耳をすます。マリアの声だった。

「スピロ!、両手をおもいっきり上に突きあげろ!」


 意味がまったくわからなかった。正面を見る。エヴァとマリアが乗った『ピストル・バイク』が猛烈なスピードで近づいてくる。

「手を上にあげろ。武器を渡す!」

 あわててスピロは両手を天空につきあげた。

「スピロ、ゾーイ。ふたりとも目を潰れ。ぜってぇに開くンじゃねえぞ!」

 この状況であまりにも過酷な指示に、スピロはほんの一瞬、まわりに群がる怪物たちの姿に目を這わせた。そしてゾーイとアイコンタクトをとると、言われるがままギュッと目をつぶった。

 自分の上をピストル・バイクが通り抜けようとするのがわかる、その殺那、頭上にあげていた両手のあいだになにかがねじ込まれたのがわかった。

「そいつをつかめ!。スピロ!」

 スピロは両側からぐっと掴んだ。とても柔らかく、固く、ぬるっとして肌触りがわるく、そしてぐにゃぐにゃとして気色悪い。


「あぶない。お姉様!」


 ゾーイの口から悲鳴にも似た警告がとぶ。スピロはハッとして思わず目をあけた。顔から一メートルほどしか離れていないところにミノタウロスのおおきな顔があった。ミノタウロスは腰をかがめて顔を近づけていた。なにかが腐ったような吐き気をもよおすような口臭に、おもわず嘔吐(えず)きそうになる。

「そいつを前につきだせ。スピ囗!」

 上空からマリアの声が響く。スピロは反射的に両腕を前方に突き出した。ミノタウロスが拳をにぎった腕をふりあげるのがちらりと見えた。大型の甕(クラテール)ほどもある拳が、スピロにむかって振り降ろされようとしていた。スピロは怖さのあまり、目を瞑ったまま顔をそむけた。

 理不尽なほど強力な力で全身を打ち据えられる——。スピロはそう覚悟した。

 

 だが、覚悟していた衝撃はこなかった。

 スピロはおそるおそる目を開いた。


 目の前にいたミノタウロスは腕をふりあげたまま、石になっていた。驚いてその周りに視線を滑らせると、ミノタウロスの横でケンタウロスが、そしてそのうしろでケロベロスが、いや、そのあたり一帯にいた怪物たち全部が石になっていた。

 呆然として手を降ろしかけると、ひときわ大きな声でマリアが上空からわめき声をあげてきた。

「スピロ。手を下ろすな、このバカ。それと、ぜったい手ンなかのものを見るんじゃねぇぞ」

 スピロはその剣幕に驚いてもう一度目をつぶると、声がした天空のほうへ顔をむけてマリアに尋ねた。

「マリア様。これはなんですか?」

 すると上からうんざりとした調子の声が降ってきた。

「は、いい加減にしろ、スピロ。おまえ、わかってるはずだろ。そいつは……」



「メドゥーサの頭だ」

挿絵(By みてみん)

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