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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第177話 オリンピュアが驟雨に見舞われる

 スピロとエヴァは競技場のほうから歩いてくる人々がいるのに気づいた。


 突然曇った空のことなどどうでも良いらしく、戦車競争のことをぼやいているのが聞こえてくる。

「大損だよ。まさかあそこでテーベの戦車がひっくり返るとは思わんかったよ」

「こっちはあっと言う間にオケラさ。コリントの戦車がタラクシッポスに呪われて、観客席に突っ込んじまったからな」

 どうやら戦車競争の賭けをはずしてしまった連中らしかった。ほかにもとぼとぼとこちらへむかっている人々が散見される。皆肩を落として、なかにはあからさまなため息をついている者もいた。


 その時、エヴァとすれ違った男が呟いた。

「雨……?」

 その男は手のひらを前に出して天をみあげた。その手にテトラ(4)ドラクマ硬貨が落ちてきた。

「え……?」

 男が驚きの声をあげたとたん、あたりはものすごい驟雨(しゅうう)にみまわれた。


 ドラクマ硬貨の雨——。


 雨は競馬場(ヒッポドローム)のほうから、こちらにむかって移動してくる。あっと言う前に、ドラクマ硬貨がカチンカチンと盛大な音をたてて地面に転がりはじめる。人々は驚くより先に、しゃがみ込んで硬貨を拾いはじめる。

 そこへ競馬場(ヒッポドローム)のほうから雄叫びをあげながら、観衆たちが群れとなって押し寄せてきた。競馬場からこちらへ移動していく雨を、追いかけてきた人々の群れだ。

 何百人もの塊となった人々が、エヴァとスピロのほうへ突進してくる。

 エヴァは両手を横におおきく開いた。

 硬貨の雨がスピロとエヴァの周りを避けて、数メートルもはなれた地点に降りはじめる。突進してくる人々が、モーゼの『十戒』のように両側に割れた。そこかしこで奪い合いが起きはじめていた。ほとんどの人が衣服を脱ぎ、それを袋代わりにして硬貨をしまい込んでいた。頭の回らないものは必死で口の中に硬貨を詰め込もうとしている。なかにはリスのように顔が変形している者もいれば、無理しすぎたあまり耐えきれずに吐いてしまう者もいた。

 硬貨の雨を追いかけてくる人々は、あとからあとから競技場のほうから湧いて出てくる。


 スピロがあとからあとから押し寄せてくる人々を亜然とした様子で見ていると、ゾーイの叫び声が頭に響いた。

「お姉様、エヴァさん。いったいぜんたい、何をやらかしたんだい。人がものすごい勢いでいなくなっているよ」

「ゾーイ。たぶん、信じてもらえないと思いますよ」

 スピロは目を丸くしたまま、それだけ言うと、エヴァのほうを見た。エヴァはスピロより先に口をひらいた。

「スピロさん、あなたはこんな直接的な力技、お嫌いなんでしょうね」

「あ、いえ……」

「マリアさんが言ってたでしょ。『えげつない謀略』はわたしの得意分野だって」

 スピロは苦笑いを浮かべた。だがこころなしか満足そうにも見えた。


「だいたい、人々を惹きつけるのに『神』なんぞが役にたったことなどありませんわ。いつの世であってもね」

 エヴァはにこりと笑って、付け加えた。

「だって、『神』にはこの世で一番大事な『L』が足りないんですもの」


 スピロは眉根をよせて、怪訝そうな顔をして言った。

「『L』?。つまり、『LOVE(愛)』が足りないんですか?」


 エヴァは目の前に見えてきた競馬場の観客席が、がらがらになっているのに満足そうな笑みを浮かべると、人差し指と親指の腹をこすり合わせて、お金を指し示すジェスチャーをしながら言った。


「いいえ、『GOD(神)』には、このオリンピックでも、この世のすべてでも一番大事な『L』がないんですわ……」




「GO(L)D(金)がね——」


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