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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第175話 スピロの賢人との知恵比べは見事だった

 エヴァは自分の慢心ぶりが腹立たしくてしかたなかった。


 エヴァはスピロと共にアンドレアルフスが残した血痕をたよりに、レオニダイオンの中庭を抜けていくところだった。つい後悔が口をついてでる。

「スピロさん、申し訳ありませんでした。せっかく正体を暴いてもらったというのに逃げられてしまいまして」

「いえ、わたくしこそ、決定的ダメージを与えられませんでした。もっと手際よく悪魔を追い詰められていれば、あんなに俊敏に動くような力は削り取れていたはずです」

 スピロはそう言ったが、エヴァはそんなことは微塵(みじん)もおもわなかった。

 

 スピロの賢人との知恵比べは見事だった。完璧といっていい。

 一度は自分こそが、このチームの頭脳だとでしゃばってみたが、あまりの力量差にため息すらでない。その膨大な知識、奥深い見通しをもった(はかりごと)、徹底的に相手を追い詰めるロジカルな思考……。どれをとってもエヴァは足元にさえ及ばない。

 スピロが正体を看破したおかげで、アンドレアルフスの動きが鈍ったのは確かだ。それを討取り損ねたのは自分の責任なのだ。


 エヴァはスピロの横顔を見た。

 そこには尊大な自負の態度も、誇らしげな喜びも、いや、それどころか大役を終えた解放感すらなかった。おどろいたことに、こころの底から悔しそうな表情だけが、スピロの顔に浮かんでいた。

 こんなときなんと声をかければいいのか、エヴァは答えを持ち合わせていなかった。それがまた自分への腹立たしさに変わる。


 その時ふいに頭のなかに声が聞こえてきた。

 ゾーイの声だった。それはエヴァにも聞こえた。


「お姉様、困ったことになっちまったよ」

「どうしたのです。ゾーイ」

「トゥキディデスさんが競揚場(ヒッポドローム)にいる観客を、次々に怪物に変えはじめたんだよ」

 エヴァはその状況に思い当たりハッとしたが、スピロは淡々と

「ゾーイ。それは前もって忠告していたはずです。想定内のはずですよ」

「えぇ、マリアさんの見立てじゃあ、やつは力のない下級悪魔だから、生み出す怪物も非力の弱いやつばかりだって……」

 マリアの名前が飛び出てきたので、エヴァはつい口を狭んだ。

「弱い怪物だったら、問題ないのじゃなくって。ゾーイ」

「エヴァさん。マリアさんは弱くて仕方がないって言ってるんですが——。弱い代わりに誰の目にも見えてないのさぁ」

「見えない?。そんな霞のような怪物なのですか?」

「おかげで、巨体の怪物が場内にあらわれているってぇのに、観客たちは誰も逃げようとしないのさ」

「それがなにか問題でも?」


 エヴァにはゾーイが言っていることの意味がわからなかった。思わずスピロの顔を見るが、スピロも同じようにわからないようだった。

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