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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第168話 これでケロべロスって言うんじゃねぇだろうな

 暴走してる——。


 マリアはそう指摘されて、手でひさしをつくってその方角を見た。もうもうとした土煙に遮られてはいるが、たしかに一台の戦車がちら側に走ってくる。

 折り返し点がちかいのにスピードを緩める気配すらない。四頭の馬は少々興奮しすぎのようで、目をひんむき、口は歯をむきだしにし、涎が垂れるままに開かれている。長い舌はでろりと垂れ下がり、開けっ放しの口のなかで左右に揺れている。


 この勢いのままこちらに飛び込んでこられるわけにはいかない。マリアは迎え撃つべく、タルディスの肩の上で、そらにむかって手を突き上げた。

 そのとき、土煙の幕がうすれはじめた。馬の下半身が見えてくる。

 その戦車をひいているのは一頭の馬だった。


 だが、頭は四頭分ある——。


 マリアはニヤリと口元を歪めた。

「おいおい、これでケロべロスって言うんじゃねぇだろうな」

 すると肩車をしているタルディスがふぬけた声で訊いてくる。

「ケロべロス?。どこに?」

 マリアは軽く舌打ちすると、こちらに向かって迫ってくる馬を指さした。

「あいつだ。あの馬だ。ンまぁ、犬の頭じゃねえし、ひとつ多いが、四つの頭が生えているだろうが!」

 タルディスは頭を前につき出して、なんども目をこらしてから言った。


「いいえ。私にはただの戦車に見えますよ」

「ちっ、もうすぐ、そこまで来てるんだ。もいちどよく見ろ!」

 マリアがケロべロスの馬を指さした。が、ケロべロスは折り返し点を無視して、直進してきた。むき出した歯をカチカチと鳴らしながら、こちらへ突っ込んでくる。

 まわりにいた観客たちはすぐに危険を察知して、悲鳴をあげながら逃げだしはじめた。

 タルディスも逃げようとしはじめる。だがマリアはそうさせない。マリアは肩車されたまま、タルディスの頭をおさつけてもう一度尋ねた。

「タルディス!。よおっく見ろ。四本の首がついてるだろうかあ!」

「マ、マリアさん、やめてください。早くにげないと!」

「四本の頭がついてるのを確認しろ」

「い、いえ。つ、ついてません。四頭の馬です」

 マリアは眉をひそめた。自分とゾーイに見えているものが、タルディス、いやここにいる人々に見えてない。

 マリアはすぐ目の前にまで迫ったケロべロスを睨みつけた。


「しゃあねぇな」

 マリアはタルディスの頭を押して飛び上がり、肩の上に足をかけると、そのまま前方にいる観衆たちの頭の上を踏みつけながら疾走した。手のなかには黒い雲と稲光。

 最前列の男の頭を力いっぱい踏みつけて、上空高くジャンプしたときには、マリアの手には自分の背丈ほどもある大剣が握られていた。


 暴れ狂った四つ頭の馬に曳かれた戦車が、観客席とトラックを隔てるの木の柵に突っ込んでくる。

 その四本の首の横を空中を舞ったマリアのからだがすり抜ける。

 マリアがそのまま御者台の上に降りたったときには、馬の頭は根元からなくなっていた。

 だが、一度勢いがついた戦車は簡単にはとまらない。馬はすでに命がなかったが、うしろの戦車に押されるようにして前進し続ける。その先にはタルディス。

 タルディスはその場から動けずにいた。自分にむかって直進してくる戦車に見入られたかのようにじっと見つめている。ぶつかるのを覚悟して目をつぶる。

 が、その寸前でマリアが御者台に渾身の力で大剣を突き立てた。大剣の刃は台の床を突き抜けると、そのまま地面深々と突き刺さった。

 それがアンカーのように戦車そのものを地面に打ちつけた。

 戦車につながれていた様々な馬具が、馬たちの猛烈な勢いを一瞬で奪いさった。首のない馬たちが馬具にひっぱられ、からだがうしろに引き倒される。何頭の馬かのからだの骨が折れる音が響いて、すぐにあたりは静かになった。


「おい、タルディス!」

 その声にタルディスはおそるおそる目をあける。マリアはタルディスの目の前に立つと、刃についた血をふりはらいながら言った。


「おい、タルディス。おまえ、油断しすぎだ」


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