第165話 我が名はアンドレアルフス
プラトンの瞳孔がふいに四角くなったのがわかった。
エヴァは一気に引鉄を引き絞った。けたたましい音がしてプラトンの額を銃弾を貫いた。そのまま、どうとうしろに倒れる。
まだだ——、頭が砕け散っていない!。
エヴァは机の上に飛びあがると、そのままプラトンの倒れたからだの上に飛び乗るようにして、ふたたび上から銃弾を放った。
が、遅かった。
プラトンは地面を転がって、銃弾をかわすと、そのままうしろに跳ね起きた。そしてジャンプすると天井近くまで跳躍し、背中を壁につけて貼りついた。
「まさかな……」
プラトンは悔しそうな声をだしたが、すでにそれは爬虫類か両生類がだす、濁った威嚇音のようにしか聞こえなかった。
「人間ごときに見破られるとは思いもしなかったわ」
「あのとき、あのスタディオンでこの命題を出したときからわかっていましたよ。どう答えていいのかわからない、というより、なにを問いかけられたかがわからない、という顔をしていましたからね」
「笑止!。我が名はアンドレアルフス」
すぐにスピロが目でエヴァにその名を打診してきた。エヴァはこのあとは自分の出番だというのがすぐにわかった。
「あら、ずいぶん偉そうに名乗ったものですね」
プラトンの目がスピロからエヴァのほうに転じられるのがわかった。四角い瞳孔。かなり距離があるが、あまり気持ちのいいものではない。
「気配をわたしたちに気取られないほどの『小悪魔』だと思っていたら、やっぱり格下も格下の悪魔ではないですか」
「なにぃ?。ガキがなにを言う」
「だって、たかが序列65番目の悪魔でしょう」
「アンドレアルフス、エヴァ様にあまり噛みつかないほうが良いですわよ。皇帝ネロの間で、ウェルキエルを倒したのは、この可愛い顔をした『ガキ』ですので」
スピロがそう煽ると、一瞬アンドレアルフスの目が丸くなったのがわかった。
動揺している——。
ウェルキエルを倒したという話は、人間界だけでなく悪魔界でも通じるらしい。
「いや、ちがう。ウェルキエルを倒したのは、あの少年『ユメミ・セイ』だと聞いている。あいつをこちらの世界に押しとどめられば、望みの階級への昇格の報償が与えられる。そこの『ガキ』はそれに入っていない」
エヴァは不満げな声をあげた。
「それはずいぶんな話ですわね。わたしたちチームで動いているのに、リーダーだけ別格扱いっていうのは不本意極まりありません」
そう言いながらゆっくりと腰をかがめて、足元のロケット・ランチャーを持ちあげようとした。その間もアンドレアルフスから目を離さずにいる。ふと、アンドレアルフスの額に刻まれていた弾痕が、ゆっくりと修復していくのが見えた。
まったく、悪魔の作った傀儡の化物とは違うっていうわけですか。悪魔本体のほうは下級でもそれなりにやっかいですわね——。