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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第164話 プラトンの弁明2


 プラトンの顔色はその事実を突きつけられても変わらなかった。


 これでは『悪魔の証』を看破したとは言えない。まだ力が弱まったとは判断してはならない。そうスピロは気持ちをひきしめた。


「プラトン様、あなたが、あなたこそが『デーモン(悪魔)』の生みの親、そして命名者です。もしわたくしがデーモン(悪魔)なら、始祖であるあなたに迷うことなく憑依するでしょうね。キリスト教信者が、イエス・キリストに近づこうとするのとおなじように……」

 ふいに室内にくっくっくっという異音が響いた。よく見るとプラトンが声を押し殺して笑っているのがわかった。

「スピロさん。それは話の飛躍がすぎますね。たしかにわたしは『神霊(ダイモーン)』の研究をしたいと思っていた。おそらくあなたの言うように、将来その研究を続けて、『神霊(ダイモーン)』に邪悪なイメージをすり込むのかもしれない。だからと言ってわたしが悪魔だという証拠にはならないでしょう」

「なるほど……。たしかに、わたくしが『悪魔』だったら、あなたに憑依しただろう、ということが、本物の悪魔が憑依している、にはならないですね」

「そうですとも。そもそもこのわたしが、スピロさんが言うように、人々を誘惑したり、苦しめたり、邪悪をもたらしたり、しましたか?。わたしはとても誠実に接していましたし、ずいぶんお役にたてたと思いますよ。マリアさんをずっと肩車もしていましたしね」

 プラトンがすこし冗談めかして言った。口元には余裕なのか、笑みのようなものも浮かんでいた。

 壁際で銃を身構えていたエヴァが、銃口を天井にむけて警戒を解くのが見えた。

「エヴァ様、まだです!」

 スピロはエヴァに一瞥をくれると、手を挙げてエヴァに警告した。エヴァは反射的に銃を身構えなおすと、すぐさまプラトンの胸に銃口をむけた。

「いやいや、スピロさん。どういうことですか。わたしの容疑は晴れたのでは?」


「いえ、最後にひとつだけ訊きたいことがありまして……」

「それはいいですが、その『機関銃』なる物騒なものは引っ込めてもらえると、ありがたいのですが……」

 頭をかきながら、プラトンがおずおずと申し出たが、スピロは構わず話しはじめた。

「『デーモン(悪魔)』というのは、古来から伝承の形で残っていますが、信頼に足る映像記録やデータに残ったものはありません。姿の見えない恐怖の象徴を、わかりやすく象形化したものであって、実は実体がないのです。

 宗教によっては、悪魔は、『理知の面では理性的で、精神面では多感、時間においては永遠不滅、そして身体においては空気のようなもの』とされたり、『実体をもった物質世界は神の創造した善の領域であるため、悪の領域にある悪魔は実体を持たず、人間や動物のなかに棲む』とされています」

「悪魔がそういう『実体』のない存在だというのはわかりました。それが……?」

 スピロはエヴァのほうにアイコンタクトを送った。それはプラトンだけでなく、横にいるソクラテス、ヒポクラテス、そしてアリストパネスにもわかるような、大仰で確信的なものだった。室内に緊張がはしる。

 だれもがいまから、決定的なひとことが発せられるとわかるジェスチャーだった。

「プラトン様、今一度、あなたにお尋ねします。どうか教えてください」



「『我思う、故に我あり』。あなたはこれがどういう意味かわかりましたか?」


 

 プラトンはほっとしたような表情を浮かべた。

 そして余裕めいた笑みとともに、おもむろに口を開いた。

 

 が、その口からはなんのことばも出てこなかった。


 どんな音も咽を上ってこなかったし、いかなる空気も口蓋垂(こうがいすい)を震わせることがなかった。

 プラトンはさながら、空気をもとめてぱくぱくと口を動かす魚のように、ただ唇を震えさせているだけだった。ソクラテスが驚きの表情でプラトンを見つめる。ヒポクラテスがうしろに後ずさり、アリストパネスのからだが震えはじめる。

 そして、エヴァはゆっくりとプラトンの胸にむけていた銃口を、その額へと移し、狙いをさだめるように片目をつぶる。


「我思う、故に我あり——。

『自分はなぜここにあるのか』と考えていること自体が、自分という存在が間違いなくここにある証明なのだ、という意味です」


 スピロはこれ以上ないほど残酷な微笑みを口元に湛えてから言った。

「でも、あなたにはわかるはずありませんよね——。

 なぜなら、あなたは『自分はなぜここにあるのか』と考えても、自分の存在は感じられない——」



「だって、身体は『空気のようなもの』で。そこには存在しないのですから——」

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