第160話 ソクラテスの弁明1
「エヴァ様、機関銃に持ち変えていただけますか?」
「機関銃に?」
「えぇ、もう一体の悪魔はすばしっこそうですからね」
スピロはエヴァがロケット・ランチャーから、機関銃に持ち変えるのを確認すると、ソクラテスのほうへゆっくり近づいていった。
「ソクラテス様、あなたはわたくしたちと出会ってから、たびたび『神話』の話を逸話として持ち出して、語って聞かせてくれました。英雄アキレスの話、アポロンとヒュアキントスの話、ヘレスポントス海狭の幽霊の話などね。でもわたくしはどうにも違和感を感じていたのです」
「あなたは不敬罪、邪神を導入して青少年を堕落させている罪で『死罪』となるのです。そんな神を敬わない人物が、神の話をわれわれに聞かせようとしている。不自然ではないですか?」
「では、わが師が『悪魔』と呼ばれる『悪しき霊』に乗っ取られていると」
プラトンがソクラテスの心の声を代弁するように大声をあげた。
「その可能性はある……。最初わたくしはそう考えました。ですが、もしソクラテス様が『悪魔』で、わたしたちを欺くとしたらわざわざ『悪魔』と対峙する『神』を持ち出すだろうか——。むしろ専門分野の『哲学』を語って、煙に巻くほうが自然で説得力がある。いや、そもそも、余計なことばを弄して、自分が『悪魔』であることを気取られないようにする必要があったのか……」
「わしが『悪魔』なるものだと言うのかね。わしは子供の頃から神的なお告げを聞いてきたのだぞ」
「まだおっしゃるのですか。先ほど、わたくしはあなたの言う神的なお告げを『精神分析学』と『分析心理学』の両面から説明さしあげたかと思いますが……」
「あれは『イデア』の意志をわたしがくみ取ったものなのじゃよ」
ソクラテスは先ほどのスピロの説明を、都合よく解釈した自分の説を再度口にした。
「ふぅ、やはり、あなたは一筋縄でいきませんね。いいでしょう。話をあなたの弟子であった、クリティアスとアルキビアデスにもどしましょう」
スピロは一度、額を拭う真似をして、一呼吸おいてから話だした。
「クリティアスと肉体関係があったかは知りませんが、一時期とても深い関係にありましたよね。いえ、それだけではないく一族のほとんどがソクラテス様に親炙し、教えを受けていました」
「あぁ、彼らの一族はわしをずいぶん引き立ててくれた。それがなにか?」