第158話 マリアとゾーイの恋バナ
「そなたが卸者であれば良い乗り手になったであろうな」
あのときルキアノスは、ゾーイにそう声をかけてきた。ゾーイは馬たちの意識下に入り込んでいたので、ふいをつかれた形になった。
すこしだけ話しただけだったが、その時点では敵や味方かわからず、自分でもなんと返したかわからない。
姉のスピロから気をつけるように言われていたせいも、あったかもしれない。
自分の心のなかではルキアノスは敵だという印象が強かった——。
だが今、ルキアノスの助力が奏功し、セイは全体の中盤あたりにまで順位をあげている。ルキアノスは二番手以降を巧みな手網さばきで牽制し続けていた。そのせいで全体のスピードはややペースダウンして、周回遅れのセイがなんとかその集団に食らいつくことができたという状況だった。
セイはすでに折り返し点も自力でそこそこうまく曲がれるようになっており、ゾーイもマリアもスーパーパワーを振るわなくてもよくなっている。
「つまんねぇな」
頭の中にマリアの悪態が飛込んできた。
「マリアさん、いまのところ、セイさんはうまくやってるじゃないか。つまんないなんてこと言っちゃあいけねえよ。だいたいこんなチートな力を使ってどうにかしようってぇ、のが姑息でいけない」
「姑息?……、卑怯ってことか?。あいては悪魔だぞ。こちらだって、そンくらいの魔法を使わせてもらわんと、勝負になんねえだろう」
「でもセイさんは、ペンタスロンもボクシングもこんな力を使わなかったじゃないかぁ」
「ゾーイ。ありゃ、使わなかったんじゃねえ。使えなかったんだろうが。それにセイ、あいつはとびっきりだ」
「マリアさんよ、そいつはなにが特別だっていうんだい」
「すべてがだよ」
「すべて?。マリアさん、あんたずいぶんセイさんをずいぶん買ってるんだねぇ。何があったんだい」
「たいしたことはねえ。ちょっと命を救ってもらったくらいだ」
「命を?。そりゃ、聞き捨てならないねぇ」
「ローマのネロ皇帝の時代でウェルキエルと戦った時、ガチで死にかけた。だが、あいつに助けられた」
「でも実際に倒したのはマリアさん、あんただってぇ、聞いたよ」
「それも含めて助けられたってことかな。あいつはすげえよ」
「なんか、マリアさん。セイさんのことが好きみたいだねぇ」
「あぁ……、好きだよ。大好きだ」
マリアがてらいもなく告白してきたのことにゾーイはおどろいた。
「あいつと一緒に旅すりゃ、誰だって好きになっちまう。たぶんエヴァの奴だってセイのことが好きにきまってる」
ゾーイは何と返していいかわからず、すこし茶化すような口ぶりも入れて返事した。
「んじゃあ、なにかい。二人は恋敵ってことになんのかい?」