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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第147話 ルキアノスに追いつかれる

 ルキアノスに追いつかれる。

 セイは焦りを感じた。あまりに速すぎる——。

 セイの脳裏に、もしかしたらルキアノスは『悪魔』なのではないか、という疑念が湧いてきた。自分とおなじチームだからといって、味方だと思い込んでいた、自分の迂闊さを今さらながら思い知る。

 だが、すぐにその思いを頭から振り払った。昨日つきっきりであれほど特訓してくれたのだ。本物の悪魔がそんな面倒なことをやるわけがない。

 この焦りはルキアノスの正体がどうこうというものではない。

 自分があまりにも離されている、という事実に焦っているだけなのだ。これだけ離されては優勝するというのは無理としか言えない。たとえ戦争の総数が先ほどまでのクラッシュで半分に減っていたとしてもだ。残り半分は全車輌、自分の前を走っているのだから。


 まだ三周目だからというのも気休めなんかにはならない。まだ三周目なのにこれだけ圧倒的な差をつけられたのが問題なのだ——。


 うしろから声がした。

「ニッポンのセイよ。どうした!。そんなことで優勝なぞ、果たせやせんぞ」

 セイはふりむくことなく大声でかえした。

「下っ端連中に足を引っぱられただけです。これから追いついてみせます」

 声の近さと大きさからルキアノスがどれほど肉迫しているのかがわかった。不遜と思われるようなへらず口を叩くしかない。

「いくら素人だと言うても、御者頭としてはアルキビアデスさまのチームからびりっけつをだすわけにはいかんのだよ」

「まだきまったわけじゃないでしょう」

「そうだな。諦めていないのは感心するが、現実を直視するのもまた必要だ。セイ」

「わかって……ますよ。だけ……ど、直視したか……らと言って、順……位があがるわけじゃ……ない」

 セイは正面を見すえたまま、精いっぱいの皮肉をルキアノスに叩きつけた。が、レーンの深く刻まれはじめた(わだち)の跡に車輪がゆさぶられ、その精いっぱいはとぎれとぎれの歯切れの悪いものになった。


「内側、ふかくに寄れ、セイ。私が加勢してやる」

 ふいにほぼ真横から声が聞こえてきた。

 ルキアノスだった。直線距離の数百メートルのあいだにここまで詰めてきていた。

「ど、どういう意味です?」

 セイは横にいるルキアノスに顔をむけて訊いた。

「時間がない。私を信じて内側に」

 セイは戦車を内側のレーン、ギリギリに位置取りした。目の前に折り返し点が迫る。セイは馬たちの手綱をひいて減速しようした。


「減速するな!、セイ」

 ルキアノスが厳しいことばで命じた。その険幕に思わず手がとまる。セイの戦車が減速することなく折り返し点につっこんでいく。

 セイの戦車は折り返し点を曲がろうとするが、高速のせいでコントロールがきかず、遠心力で大きく外側に振り回された。

 が、その外側にルキアノスの戦車がぴたりと寄り添っていた。おおきくふられるセイの戦車がルキアノスの戦車に接触する。どこかがガチャンとなにかがぶつかる音。

 その衝撃でセイのからだも外側に大きくふられ。御者台から外側に投げ出されそうになる。だが、そのからだをルキアノスが片手一本でぐっと支えた。

 ルキアノスは一方に手綱を口にくわえ、この難所を右手一本で御していた。

 

 嘘だろ——。


 二台の戦争がぴったりくっついたまま三周目を折りかえしていく。


 まさに離れ技だった——。


 ルキアノスは高難度の折り返し点で、セイの戦車を内側に押し込めて、最短ルートで回らせながら、セイのからだを支えるために、片手で卸してのけたのだ。

 その神業的なテクニックを見た観衆から、今までにないため息まじりの歓声があちこちで巻きおこった。


「セイ、そのまま行け!」

 直線にはいるとルキアノスが叫んだ。

「ルキアノスさんは?。どうするんです?」

 セイはルキアノスに尋ねた。

 ルキアノスは背後をちらっと見た。背後にはセイたちに続いて、次々と折り返し点を回ってくる後続の戦争があった。

「なあに、このままでは、アルキビアデス様の言いつけのように、そなたを優勝させることはできんからな……」

 ルキアノスはニヤリと口元をゆるめた。


「もうちっとばかり、ライバルを減らしてきてやろう」



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