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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第141話 避けきれるはずもない

 セイは自分の手のひらのなかに未練の力(リグレット)をやどらせた。手の中に暗雲そして。火花がバチバチと散る。

 あの障害物をどかしてみせる——。

 セイはいちかばちかの賭けで、力を手のひらに集めた。が——。


 無理だ——。


 どうあがいてても倒れている馬と横倒しになっている戦車を動かすことなど不可能だと感覚的にわかった。回避することも難しい。失格覚悟で分離帯へ飛び込むか——。

 いや……。

 すぐにセイは手綱を両手でしっかりと持ち直し、衝突の衝撃に備えた。折り返し点が近づく。先行する戦車の集団は標柱のたもとの障害物を避けるため、外側にふくれて大回りしながら折り返し点にむかっている。

 そのとき、倒れている馬と戦車が、ズルッと横に動いた——。

 なにかに地面ごとひっぱられて、事故現場が現状のまま外側にまるごと横滑りした、という動きだった。

 セイの目の前から障害物が突然なくなった。と同時に外側を走っていた先行の集団の前に、その事故現場が差し出された。

 御者たちは悲鳴をあげた。

 セイを衝突させるはずの障害が、ふいに自分たちの足元に滑り込んできたのだ。

 避けきれるはずもない——。

 馬たちは障害物に足をとられ急停止するが、倒れた馬や戦車に乗り上げた。数台の戦車が驚くような高さにはねあがった。と同時に、ポンポンと御者たちを空中に放りあげていく。一度に四人もの御者たちの姿が中空を舞っていた。

 セイはその脇をなんとかすり抜け、折り返し点を通り過ぎた。だが、加速しすぎて方向転換することができない。手綱をひく。


 まわれぇぇぇぇ————。


 そのとき、ベールのようなものが、馬のまわりを包み込んだ。直進し続ける馬の進路を、ゆるやかに反転させるように、やんわりとした湾曲している。カーブがかかったガードレールで、車を無理やり曲げさせるような、そんな印象をうけた。

 もちろんそのベールはセイにしか見えていない。

 少々不自然なまわり方だったが、セイの戦車はなんとかトラックに進路をもどすことができた。北側のトラックへ進路をとり折り返す。

 その途中、標柱のほうをかいま見ると、セイの前を走っていた七台の戦車が、折り重なったり、バラバラに砕け散ったりして、惨憺(さんたん)たる有り様となっていた。


『いやぁ、セイさん、勘弁しておくれよぉ』

 ゾーイがいささか疲れた声で、文句じみた声をもらした。

『いまのはゾーイがやってくれたのかい?』

『いや、あの方向転換はマリアさんさぁ。あたいは馬と戦車をどかしただけさ』

『本当かい?。信じられない。ぼくはすぐにあきらめたんだよ。動かせっこないって』

『ん、まぁ、それがあたいの能力だからねぇ。それでもあれはしんどかったよ』

『ありがとう、ゾーイ。助かったよ』


 ゾーイはそれ以上なにも言ってこなかった。簡単に言ってのけてたが、相当に負担があったのだとセイは理解した。

 北側のトラックは係員の手によって障害物が脇へと撤去されていた。

 テーベの戦車が分離帯を横切って激突した現場も、さらにその隙間から逆走してきて、後尾の戦車をあらかた巻き込んだ現場も、まだ木っ端や装飾品の破片等が残っていたが、なんとか戦車が走れるていどにはなっていた。

 セイは戦車を加速させた。前にもうしろにもほかの戦車がおらず、心置きなく走れる直線だった。

 が、背後から馬の足音が聞こえた。そして迫ってきていた。

 セイがふりむくと、そこに堂々とした顔つきの馬が、こちらを睨みつけて追いかけてきていた。

 ルキアノスだった——。



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