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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第137話 ルキアノスには気をつけろ

『ぼくのうしろに?』

 驚いてセイはゾーイに再確認した。いまさきほど後続の戦車が多重衝突をおこして全滅したはずなのに、すぐうしろに戦車が迫っているとは思えない。

『セイさん。まうしろじゃないよ。すぐ横をみておくれよ』

 セイはそのことばに促されて、分離帯のむこうに目をむけた。反対側のトラックを戦車が走り抜けていくのが見えた。これが先頭の戦車ならば半周以上離れていることになる。

『もう半周も離されたのか!』

『先頭はルキアノスさんだよ』

『ルキアノスさんか、よかった』

『だけど気をつけてくださいよ。お姉さまは信用しきれないと言ってるんだよ』

『なぜだい。おなじチームじゃないか。アルキビアデスさんの……』


『だから危ないんだよ』


 セイは思わず反対側のレーンを振り返ってみた。すでにルキアノスの戦車は目で追えなくなっていた。

 セイは折り返し点を一気にまわった。今度もゾーイが車輪を浮かせたところに、体重を一気に傾け、最短の円弧でなんとかすりぬけた。

 3周目に突入——。

 南側のトラックを走り始めると、すでに『タラクシッポス』を(かたど)った黒い雲は細かな粒子となって、形がわからなくなっていた。

 このマリアの作った幻影ひとつで、戦車の数は四分の一なくなっていた。


 スピロもずいぶんエゲつない作戦をマリアに授けてくれる——。


 セイは手綱をふるった。

 うしろから追いつめられる脅威は、とりあえず解消したが、三十頭のレースの三十番目なのだ。このまま上位に食い込むことは、とうていかなわない。

 セイが速度をあげるとすぐに、目の前を走る戦車に追いつき始めた。全体の何番目の集団なのかはわからなかったが、ここには七台ほどがひしめいていた。

 こいつを追い抜けば真ん中あたりの順位にでれる——。


 セイは集団の最後尾に迫って、どこか前に出れる隙間はないか、と神経を研ぎ澄ませた。だが、七台もの戦車、30頭ちかい馬が身を寄せあって、地面を踏みならす音は、観客の大歓声すら聞こえないほどうるさいうえ、巻き起こる砂塵で進行先の状況も把握できない。

 地面にできはじめた轍のせいで、車輪ががたつき頭が揺さぶられる——。


 頭のなかでなにかが聞こえた——。

 おそらくゾーイがなにかを呼びかけてきたのだろう。だが、それが聞き取れない。

『ゾーイ、なにを言ってる?』

『——てくださいよ……』

 轍に車輪がとられて、そちらに注意が持っていかれる。

『ゾーイ。もう一度……』


『セイさん、すぐに外側に逃げな!!』


 セイのあたまに今度はしっかりとゾーイの警告が飛び込んできた。

 ハッとして前を見る。


 セイの前をふさいでいた戦車の集団が一番内側のレーンからずれて、外側に移動していた。その先に目を転じる。


 折り返し点の標柱に激突して、大破した戦車がセイの進路に転がっていた。

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