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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第133話 トゥキディデスとの問答3


「たしか、あの年はメロス島包囲網が行われた年だったはずだネ。そうだから四回前……。16年前の話だネ」

「あぁ、そうであった。あの男は戦車競争で優勝したその年の冬、中立を宣言した小さな島メロスの人々を虐殺し、女性と子供を奴隷として売り飛ばしたのだよ。信じられるかね。そしてその次の年に、将軍に選出されると、シチリア遠征を提唱し、決議させたのだ」

 その年のことを思い出したのか、ソクラテスが脇から自分の話を挟み込んできた。

「あのときはわしの元に『神霊(ダイモーン)』が現れて、この遠征はアテナイのためにならないと警告を発したのじゃが、聞きいれられんかった」

「師匠であるソクラテスの制止もきかないとは、アルキビアデスという男はなんとも傲慢(ごうまん)ではないですか。そもそもだれが考えても無謀と思えるシチリア遠征を、どうしてアテナイの市民は指示したのでしょうか?」

「それはお金の力と名声です」

 スピロはひと言で断じた。

「アルキビアデスは、アテナイに金を寄付し、国のために有り余るほどの出資をしました元々先祖の名声もあり容姿端麗で人気が高いですし、戦闘経験も豊富で武勲も数々とあげて、その上、弁もたつとなれば、アテナイの人々もつい寛容になるというものです」

 スピロのことばを受けて、トゥキディデスが弱り切った表情を浮かべて頭を横にふりながら言った。

「ついには、オリンピック優勝を民衆にアピールして、総司令官にまで登りつめ、無謀きわまりないシチリア遠征を強行したのだ。だが、その道中にヘルメス神の柱像を破壊した容疑と、神への祭儀を冒涜した嫌疑がかけられると、彼は敵国スパルタに亡命して、祖国であるアテナイを打ち破ってしまった。あろうことか、あやつはアテナイ弱点をつく戦略的助言を行うと同時に、同盟の諸都市に、アテナイへの反乱を起こさせる煽動工作をしたのだ」

 そこまで聞いてヒポクラテスが思わず口を挟んできた。

「ちょっと、待ってくれないか、トゥキディデス。わたしはアテナイの人間ではないし、各地を転々としていたので、この戦争の経緯に詳しくないので教えてもらいたい。故国に敗北をもたらせたアルキビアデスという狡猾(こうかつ)な男は、重大な犯罪人だと思うのだが、なぜ、今またこのオリンピックにアテナイの代表として参加できているのかね」

「あぁ、ヒポクラテス。それがアルキビアデスという男のしたたかさだよ。アテナイを徹底的に叩いたあやつは、敵国スパルタでも扇動政治家(デマゴーグ)ぶりを発揮して、人気ものにのし上がったのだ」


「そう、その類いまれなる美貌と華麗なる弁舌で……」


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