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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第129話 タラクシッポスの祭壇

 馬は完全にパニックに陥っていた。


 内側のほうへ向かうというより、まるで南側の土手から逃げ出そうとしていた。

 あまりに急に左へ進路を変えたせいで、その隣を走っていた戦車と接触する。戦車のどこかの部位がひっかかったのか、斜行をする馬にひっぱられ、その隣の戦車が不自然な動きに翻弄(ほんろう)される。御者は必死の形相で制御を取り戻そうとするが、思うようにならない。歯を食いしばって手綱を引き締める。 

 が、その努力もむなしくその戦車は分離帯にある祭壇に激突した。横倒しになって分離帯に置かれた彫像をなぎ倒す。

 そのとたん、セイのうしろで、馬たちの悲鳴があがった。いなないている、のではない。その鳴き声はあきらかに逼迫(ひっぱく)していた。

 原因はすぐにわかった。

 『タラクシッポス』の祭壇だった。

 その祭壇の上に浮かぶおおきな顔に、馬たちが怯えていたのだ。それは祭壇の上に広がる暗雲が馬の顔を形作ったものだったが、馬たちは本能的に畏怖していた。

 空にひろがった馬のおおきな顔の下側から前脚が蹴り出される。トラックの上に踏み出され、力強く踏みつけられた。ドーンとおおきな音がして、地面が今にも揺れるのではないかという錯覚におちいる。

 馬を錯乱させる悪霊『タラクシッポス』が今、ここに、この競馬場(ヒッポドローム)に降臨しようとしていた。

 ただのマリアが黒い雲で作り出した幻影——。

 だが馬はその姿に半狂乱になっていた。

 反対側のトラックを走っている馬は、この『タラクシッポス』を背にするので見えていない。だが、これから折り返し点に向かう馬には、その異様な姿はすぐそばにあった。馬たちはそこから逃げ出そうとし、足をとめようとし、はずれたコースに足を向けようとしていた。

 テーベの戦車がふいに左折して、分離帯スピナに置かれている彫像や捧げ物のほうへ突っ込んだ。『タラクシッポス』から逃げようと馬たちの足並みは乱れに乱れた。だがテーベの御者には荒れ狂う馬を制御する手だてがなかった。

 テーベの戦車は分離帯スピナを突っ切っていくと、反対側のトラックを走っていた先行する戦車に、横から突っ込んでいった。


 3台の戦車が巻き込まれた。

 戦車同士がぶつかる破壊音とひとの悲鳴、そして馬のいななき——。


 2台は真横からテーベの戦車の突撃をうけて吹っ飛んだ。2台の戦車が横倒しになって転がり、馬たちがそれにひっぱられて引きずり倒される。突っ込んでいったテーベの戦車は、その倒れた馬にのりあげ、御者は空中高く放りあげられた。

 直撃をのがれた一台は御者台の部分を破砕され、御者は戦車から投げ出されていた。かろうじて馬が走り続けていたが、業者は手綱がからまったまま地面を引き摺りまわされていた。みるみる血と砂まみれになっていく。

 

 待ちに待った凄惨な事故に、観客たちの興奮に充ち満ちた歓声が巻き起こる。



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