表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
238/932

第126話 ヒポクラテスとの問答3

「もうひとつの『謎』は、ヒポクラテス様、あなたに関することです」

 スピロはヒポクラテスを真正面から見すえて言った。

「それはヒポクラテス様、あなたの残した膨大な書物『ヒポクラテス全集』の中に、この『アテナイの疾病』が一切でてこないということなのです。不思議ではありませんか?」

「それはたしかにおかしいな」

 ヒポクラテスより先にトゥキディデスが声をあげた。

「わたしとヒポクラテスはほぼ同年代だから、『アテナイの疾病』がおきた時は、まだ30歳代の働き盛りだったはずだ。ギリシアの者でこの惨事を知らない者などいないし、医学を志した者ならそれに言及しないなど考えられない」

「そうなのです。経験と記載を重視しておられるヒポクラテス様がこのような希有(けう)な災厄に遭遇して、診察をしないなどは考えられません。ましてや『二度なし現象』など、研究対象になりうる事例が報告されているとなればなおさらです」

「たまたまヒポクラテスの耳にこの疾病の話が届かなかったのではないかな?」

 今度はヒポクラテスの代わりにソクラテスが擁護(ようご)してきた。

「そういう説もあります。ですが、ヒポクラテス様の弟子にあたる医者や看護師は、現地に赴き、おおくの人々が命を落としています。疾病が終息するまでヒポクラテス様が知らなかった、とは思えません」

「現地が遠くて行けなかったのではないのですか?」

 プラトンがおずおずと意見を述べると、即座にソクラテスが否定した。

「そんなわけないじゃろう。当時ヒポクラテスが住んでおったテッサリアとアテナイはそんなに遠く離れておらんわ。それに親友のデモクリトスが病気と知らされたときには、コスからアブドラまで急行しているのじゃ。テッサリアとアテナイ間の二倍の距離をな」

「ですよね。なのに、ヒポクラテス様は、病気が蔓延(まんえん)するアテナイに足を踏み入れようとしなかった。なぜです?」

 すると今度はアリストパネスまでもが加勢にくわわってきた。 

「スピロさん。あなたが言う『ヒポクラテス全集』から、『アテナイの疾病』の記述部分だけが抜け落ちたのではないかね。わたしの戯曲もずいぶん残欠があって、残っていないと言っていたではないかね」

「そういう説もあります。全集の編集時に抜け落ちたのではないか、という……。ですが、これだけの厄災、その部分だけがすっぽり抜け落ちるものでしょうか?。もしそれを割愛したとしたら、割愛しなければならない理由があったのではないですか?。たとえば、ヒポクラテス様、あなたにとって、いえヒポクラテス派にとって知られたくないことが……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ