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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第123話 コリントの御者がセイを攻め立てる

 セイは直線ですこしでも前に出るために、手綱をうちふるった。

 馬たちの走りが加速しはじめると、すぐ前を走っていたコリントの戦車をとらえ、すぐにその戦車に並んだ。セイは横一列で前をふさいでいる2台の戦車に狙いをつけた。並列に並んでいるため、前に出たくてもその隙間がない。


「ずいぶん、器用な技を使うようだな」

 ふいに横からわめくような声が聞こえてきた。

 コリントの戦車の御者だった——。

 車輪と馬の足音の鳴り響くなかでは、かなり聴き取りづらかったが、どうやらこのコリントの御者がまずは仕掛けてこようとしているらしい。

 ただ、この男が悪魔の手によるものか、ただの競技者なのかはわからない——。

 コリントの御者は手綱をさばくと、セイの戦車を内側に幅寄せしようと、外側から車幅を狭めてきた。ローマ時代のものと異なり、両側のトラックを完全に分断する豪壮な分離帯スピナが築かれているわけではなかったが、それでも標柱と標柱のあいだには捧げ物や彫像がずらりと並べられている。内側にむりやり押し込まれれば、それらのどれかを巻き込んで、戦車はクラッシュするのは間違いない。

 セイはうしろをふり返った。

 すぐまうしろに2台の戦車が迫っていた。コリントの御者の仲間ではなさそうだったが、あきらかにコリントの御者の動きをみて、それに呼応しているようだった。どうやらバトル・ロワイヤルのように、だれかれ関係なく、まずは戦車の数を減らしてやろうという算段らしい。

 前に2台、横から幅寄せしてくる一台、そしてまうしろに退路をふさぐように2台——

 セイはとるべき進路はひとつしかない、と腹を括った。

 セイは手綱をふると、コリントの御者のほうへ逆に幅寄せするように戦車を外側にむけた。とたんに、どちらかの車輪がどちらかの戦車に接触したことがわかる、ガリガリというなにかが削れる音が聞こえてくる。コリントの御者が怒りの表情をこちらにむけた。

 セイはコリントの御者と顔を見合わせるやいなや、驚愕した表情を顔に浮かべて、コリントの御者の右奥のほうを指さした。


 そこは『タラクシッポス』の円形の祭壇がある場所だ。


 オリンピックに参加する御者はセイが指さす場所が、どれほど忌むべき場所かだれでも知っている。コリントの御者は恐怖のあまり、そちらに視線を向けることができなかった。

 その一瞬の隙をセイはついた。

 片手で掴んでいた手綱を打ち振るうと、コリントの御者の斜め前の空間に馬を滑り込ませた。『タラクシッポス』の呪縛にからだが萎縮していたコリントの御者は、その速度に反応することができない。

 前をいく2台の真横、一番大外に戦車を抜け出させることに成功した。

 

 その鮮やかな手際に、観衆からおおきな歓声が巻き起こった。


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