表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
228/932

第116話 アリストパネスとの問答2

「ですが、そのお二人の反骨精神が未来にあたらしいことばを残しました」

「あたらしいことばを?」

 プラトンが呟くようにスピロに問いかけた。

「はい。『デマゴーグ』ということばです。このことばは元々『民衆の指導者』という意味だったのですが、おふたりのクレオンへの徹底的な非難によって、『悪しき扇動政治家』という意味になり、いまでは根拠のない噂や流言を『デマ』と呼ぶようになっています」

「そうなのかね。それはなんとも痛快な話ではないかネ。トゥキディデス殿」

「おぉ。アリストパネスよ、これでクレオンに対する恨みや憎しみがすこしは晴れるというものだよ」

 アリストパネスは相好を崩して気分良さそうにしていたが、スピロは彼を真っ正面から真摯な目で見つめてから言った。

「アリストパネス様、あなたの芝居をみると、みな奇想天外の筋立てで、美しい歌はあるものの、登場した役者が舞台の正面席に陣取っている人、たとえば傲慢な政治家や戦争好きの将軍、うぬぼれた知識人といった連中を面とむかって攻撃したり、コーラスが作者の政治上の意見を主張したりしてましたね」

「スピロ殿。それが喜劇というものですよ。そのような人を喜劇のなかでからかうことで、彼らの反応をみた市民たちが溜飲をさげられるものだからネ」

 アリストパネスの口は軽やかで、まだ愉悦にひたっているような口調だった。

「ですが、個人攻撃やただの当てこすりで、しばしば不埒なほど権力者を嘲るというのはどうでしょう。そこにいるソクラテス様はそんなにあげつらうような人でしたか?」

「『雲』の話かね。それははもういいのではないかネ。最下位だったとキミらの仲間の前で、わたしは充分恥をかいたと思うがね」

「ふん。そなたは数人の前で恥をかいたのかもしれんが、わしはあのディオニュシア祭で満員の観衆のなかで恥をかかされたのじゃよ」

「ソクラテス、そなたこそ、大声で叫んで劇を台無しにしてくれた」

「それだけではありませんよ」

「な、なにを……」

「この作品のせいで、このあと開かれる裁判ではソクラテス様はたいへん不利になった、と言われています。あの劇は裁判員に『ソクラテスは世迷いごとを吹聴し、若者に悪知恵を吹き込んでいる』という先入観を植えつけたようです」

「で、では、わたしの作品は未来に影響を与えたというのか……」

「まさか。あなたの愚作にそれだけの影響力があるものですか」

 スピロは唾棄するような勢いで、アリストパネスのことばを斬って捨てた。あまりに容赦ない物言いに、アリストパネスの気分はたちまち急降下していったのがわかった。

「愚作だとぉ。たしかに『雲』は評価を得られなかったが、それ以外の作品は……」


「どれも下劣で酷いものです」

 間髪をおかずにスピロはアリストパネスをあしざまに卑下した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ