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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第115話 アリストパネスとの問答1

「アリストパネス様。まずはわたくしはあなたに、謝らなければなりません」

 スピロはアリストパネスにむかってしおらしい声をかけた。


「それはどういうことかネ」

「先日、あなたの戯曲『雲』をこき下ろしてしまいましたからね」

「ほう、ではスピロ殿、あなたはわたしの作品のすばらしさを……」

「いいえ。やはりあれはデキがわるい作品だと思いますわ」

 すぐさまソクラテスが反応した。

「そうじゃ、このソクラテスを面罵しおって、愚作もいいところじゃ」

「えぇ、そうですとも。あれは酷い作品だと思います。それに『鳥』という作品もです。あれはカッコウたちが雲の上の『カッコウの国』へソクラテスを招くという内容ですが、これも……」

「ちょっと待ってくれないかネ、スピロ殿。きみはわたしに謝りたいのではないのかネ。これではむしろさらに貶めているとしか思えないのだがネ」

 そう言いながらも、アリストパネスはソクラテスとプラトンのほうに睨め付けた。

「失礼しました。わたくしが謝りたかったのは、あなたの劇のなかにも見るべきものがあるということです」

「どうにもすっきりしないネ。やはり(おとし)めているようにしか……」

「いえ、わたくしはあなたの作品のなかにある反権力へのメッセージは見上げたものだと思っています」

「そうかね。それならばいいのだがネ」

「たとえば、あなたの戯曲『バビロニア人』……。あれにはどんなメッセージが?」

「ふむ、あの作品は扇動政治家(デマゴーグ)クレオンを非難するために書いたのだよ。あの男は偉大な指導者ペリクレスの後釜に座ったが、なにせ好戦的で無慈悲な男だったネ。アテナイに離反したレスボス島のミュティレネを軍を派兵して鎮圧すると、ミュティレネ市民全員を処刑しようとしたのだ」


 するとそのやりとり我慢ができなかったトゥキディデスがふいにわって入った。

「あぁ、一度は可決されたが、次の日にディオドトスの弁論によって覆されたのだよ。それはわたしの書いた『戦史』にも詳しく書かれておる」

「そうでした。トゥキディデス様。あなたはその『戦史』のなかで、アリストパネス様とおなじように、クレオンを粗野な無能者として描いていましたね」

「当たり前でないかね。わたしは将軍としてペロポネソス戦争を戦ったが、トラキア・アンフィポリスの作戦の失敗をクレオンに告発されて、20年間も故国アテナイを追放されたのだよ」

「トゥキディデス殿。わたしもですよ。わたしはあの劇のせいで、クレオンから『国家転覆罪』で告訴されてしまいましたからネ。外国人の面前でアテナイ市民の名誉を棄損したというのですよ。まったく言いがかりもいいとろこではないかネ」

「ですが、アリストパネス様。あなたは懲りることなくほかの作品でも、徹底的にクレオンをばかにし続けたではないですか。『アカルナイの人々』や『蜂』という戯曲でも。とくに『騎士』という戯曲ではアリストパネス様、あなた自身がクレオンを演じて、もっとも滑稽で恥ずべき姿をさらした」

「あれは苦肉の策なのだよ。クレオンの圧力に屈した職人がクレオンを模した仮面を作ることを拒んでネ。しかたなくわたしがテスビス時代の放浪喜劇役者にならって、ぶどう酒の(かす)で顔を隠して出演したのだ」

「それは愉快だな。わたしも見てみたかったな」

 トゥキディデスが残念そうに顔をゆがめると、ソクラテスがすこし得意げな様子で口を挟んできた。

「わしはその劇を見たぞ。あれは大笑いできた。最後はクレオンが身分の低いソーセージ売りまで落ちぶれて市外で働くという結末じゃったな。あれはよくできておった。あんなに拍手喝采だった劇はそうはあるまい」

 ソクラテスがひとり合点がいった様子で、うんうんと頷きながらアリストパネスを称賛した。


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