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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第113話 戦車入場 

 「テッサリアのクラウキダス、御者はカリアス」


 伝令が出場選手の目録を掲げて、おおきな声で読み上げた。

 四頭立ての戦車テスリッポンが縦一列に並んで競馬場(ヒッポドローム)に入場してきた。馬が脚を高々と蹴り上げて、トラックをゆっくりと行進していく。

 

 伝令が御者と戦車の持ちオーナーの名前を読みあげるたびに、次々と戦車が競馬場(ヒッポドローム)に入場してくる。ここでは同時に60台の戦車が競走することができたが、今回大会は40台余りが出場していた。つい四年前に終結したペロポネソス戦争で各ポリスが疲弊したことを考えると、これでも充分すぎるほど多い。

 こののちのローマ時代におこなわれた戦車競争(チャリオット)では、原則として四頭立て戦車の競争は12台を超えて出走してはならなかったので、このオリュンピアでの戦車競争がいかに大掛かりだったものかがわかる。


 ルキアノスの戦車がトラックに入場してきた。

「アテナイのアルキビアデス!」

 伝令がアルキビアデスの名前を読みあげた。だが御者であるルキアノスの名前はコールされない。

 ルキアノスの戦車がトラックを周回しはじめると、審判員席の隣に設えられた馬主席から顎をすこしつきだして凛とした立ち姿で、アルキビアデスが起立した。このような砂と緑しかない場所であっても、アルキビアデスの美貌とたくましいからだ、豪奢できらびやかな出で立ち、そして身体から匂いたつような気品が、おおくの観衆の目をひきつけた。

 観衆たちに手を挙げてこたえると、歓声がひときわおおきくなる。だがそれとおなじくらいのブーイングのようなため息めいた声もあがり、賛否が()い交ぜになった。

 アルキビアデスはそんな否定的な空気を気にかける様子もなく、自分の名前がなんども読み上がられるたび、人々の歓声に答え続けた。

 そして六回目のコールがセイの戦車の出番だった。

「アテナイのアルキビアデス」

 今度はいままでとちがったどよめきが競馬場を包み込んだ。名前は呼び上げられなくとも、観客たちはセイの姿を見ただけでわかった。前日、ボクシングで伝説のチャンピオンの孫エウクレスを倒した小アジアの少年——。

 みなが息を飲まないはずがない。


 セイは競馬場を埋め尽くす観客たちを見回しながら、ゆっくりと戦車を前に進めた。まわりから観客の声援が降り注いでくる。期待に胸を膨らませるような、晴れやかで、温かみのある声援とともにセイの名前があちこちでコールされている。セイは観客たちに応えるように、手を挙げた。

『ま、たぶん、今だけだろうな……』

 セイは出場直前にスピロが心得を説いてきたのを思い出した。




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