第112話 五人のなかから悪魔をいぶり出してみせます
スピロはエヴァと目配せをすると、賢人たちのまわりをゆっくりと歩き出しながら言った。
「わたくしたちは未来からきた能力者で、特別な能力や経験をもっています。ですから通常の場合、悪魔はひと目見ただけで、誰に取りついているかがわかります。ただ今回、その能力や経験をもってしても、悪魔が誰なのか見破れないのです」
「あなたたちが言う悪魔なる存在がいないからではないのですか?」
プラトンがスピロに疑問をぶつけてくる。
「それはありません。現世の魂をこの世界に引きずり込んだ者がいるのは確かなのですから。ですが、その目的は、一人の無名の選手を優勝させない、などという、あまりにも瑣末なものです。もしこれが任務だとしたら、まともな悪魔に与えられた『任務』とは言えないレベルの低いものです。これだけで、この悪魔が相当下級であることがわかります」
「ならば、おまえたちは簡単に対処できるじゃろう」
ソクラテスがスピロを指さしながら言った。スピロはわざとらしく胸に手をあて、嘆くような仕草をした。
「あぁ、そうなのですよ。ソクラテス様。それがわたくしたちには腹立たしくて仕方がないことのなのです。相手がいままでにないほど、とるに足らない存在すぎて、むしろ手を焼くはめになっているのです」
スピロは床を指さしながら、力強く言った。
「ですが、わたくしは今からここで決着をつけるつもりです。あなたたち五人のなかに紛れ込んだ悪魔をいぶり出してみせます」
「ちょっと待ってくれないか。スピロさん。このなかに『悪魔』と呼ばれる悪しき者がいたら、タルディスさんが襲われるのではないです?」
ヒポクラテスが医者らしく、タルディスのことをおもんばかった。
「タルディス様はあの奥の部屋でまだ寝ておりますが、ご心配なく。タルディス様のいる部屋の前にエヴァ様がおりますので」
「ちょ、ちょっと待ってください。エヴァさん、ひとりだけなのですか?」
プラトンがおどろいてスピロに再確認した。
「えぇ。それがなにか?。マリア様とゾーイにはセイ様の応援をお願いしましたので……」
トゥキディデスもおなじように確認をしてくる。
「あ、いや。あなたのいう『悪魔』という邪悪な精霊は、エヴァ殿ひとりで退治できるのですかな」
「あら、みなさまはあの『機関銃』の威力は見ましたでしょ。あれを撃ち込めば、悪魔のからだから、首を吹き飛ばすことなどたわいもありませんわよ」