第111話 賢人様、お集まりいただきありがとうございます
頭を殴りつけられたような衝撃に、おもわず額をおさえる。
なにものかによって、仕掛けられていた罠にまんまと躍らされていたことに今気づいた。それも最初から、しかもこの世界そのものに仕掛けが施されていた——。
狡猾な悪魔——。
2400年も未来の人間を騙してくれたつけは、高くつくことを教えてあげねばならない。
その正体をさらして、面罵したあげく、その命脈をたつ。
それがそのような悪魔への仕打ちだ。
スピ口は円卓に囲んで座っている五人の賢人を、にこやかな笑みを浮べながら見回した。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
だれも口を開こうとしなかった。だが、五人が五人とも、それぞれ温度差はあるものの不満そうな表情自体は隠そうとしてなかった。
それは理解できる。
メインレース開始前の貴重な時間に、こんな一室になかば強制的に隔離されているのだから、口もききたくはないだろう。
「さて、昨日、ここにいらっしゃる五人の方々が、わたしたちが『悪魔』と呼ぶ悪しき精霊に狙われていると申しあげましたが、どうやら間違いであったことが判明しました」
「間違えていたじゃとお」
ソクラテスが最初に、不満の火ぶたを切った。
あれだけプライドをずたずたにしたのだから、ソクラテスが自分に対して良い印象を持っていないのは無理からぬことだ。
「ええ。わたくしの見立てちがいでした。『悪魔』はあなたがたを襲うのではなく、あなたたちの中に紛れているのがわかったのです」
「なにか邪悪な者がまぎれこんでいると?」
ヒポクラテスが声をあげた。
「ええ。この中のどなたかのからだを『悪魔』が乗っ取っているのです」
「それは誰なのかネ。ミス・スピロ」
アリストパネスが声をあげる。
「アリストパネス様、大変残念なのですが、それはわたくしにもわからないのです」
「わからないとはどういうことかね。スピロ殿」
トゥキディデスが怒りをぶつけてくる。
「それがですね。その『悪魔』があまりにも非力で矮小な存在のために、わたくしたちも』悪意』の気配を感じ取れず困っているのです」
「感じ取れない?。スピロさん、どういうことなんです?」
プラトンがきわめて事務的な口調で訊いてきた。