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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第106話 戦車競争の『選手』は選ばれし者


 やがて白々と空が明るみはじめると、今度は競馬場は様相を一転させはじめる。


 今度は華やかに着飾った貴族たちがあいさつを交わし、使節や外国の高官も極上の盛装で集まってくるようになる。貴族に帯同した高級娼婦は美しさに磨きをかけ、高価なシルクの服をまとい、きらびやかな宝石を身に付けていた。たちまち競馬場はファッションショーさながらの様子をみせはじめた。

 このレースでは御者ではなく、馬と戦車の持ち主が勝者になる。それは全ギリシアに名前を轟かせる栄誉であったため、参加する『選手』はその瞬間のために、持ちうる贅をつくして備えていた。

 ただ、持ち主として戦車競走に参加することは、誰もができることではなかった。それが四頭立ての戦車(テトリッポス)であればなおさらだった。

 まず馬の飼育のための広い広場、寝るための馬小屋、飼育員は必須であったし、馬主が戦車に乗るのでなければ専任の御者、そして獣医も必要だった。

 戦車の製作と維持にかかる費用も相当なものであっただろうし、専門的なトレーナーを置いているところは、さらに費用がかさんだ。

 持ち主はレースが開催されるたびに、船の輸送をおこなう派遣団を組織しなければならなかった。四頭立てであっても常に補充の馬も用意し、飼料のストック、車の予備部品も運ばねばならない。このときは御者や飼育員のほかに、馬を戦車につなぐことに長けた皮細工師、賄いのためのコックなども一緒に乗船する。

 最寄りの港から競技場まで輸送する荷馬車、宿泊用のテント、寝具、料理の食材、調理道具ももちろん必要で、レースごとに膨大な費用がかかった。 

 そしてなによりも、戦車所有者のライバルたちとのつきあいのための、交際費もすくないものではなかった。

 古代オリンピックにおいて、戦車競争の『選手』は、別の意味でも選ばれし者しか参加できない競技だった——。


 

 アスコット競馬が社交場とされる何千年も昔から、競馬とファッションは切り離せない——。


 ゾーイはその様子をみながら、ひとりごちた。

 ゾーイはセイとふたりで早朝から馬たちの元へやってくると、遮眼革(ブリンカー)』を作成して、馬たちの顔に取り付けていた。この時代にないものだけに、ほかのポリスの御者たちがなにをしているのかと、興味深そうに見ていたが、それに構っている余裕は、ゾーイにもセイにもない。

「セイさん、記憶を頼りにエヴァさんに召喚してもらったけどねぇ、ちょっと派手すぎるんじゃないかい」

「いや、心配ないさ。馬たちも嫌がっている様子もないし……」

「スピロがこれが必要だと言うし、それのためにマリアに秘策を授けたってことだから、それに賭けるさ。ところでゾーイはなにかスピロから特別に言われたことはないのかい」

 ゾーイはおおきく肩をすくめてみせた。

 

 大袈裟かと思えるジェスチャーになったが、実際それくらいの気持ちがこもるほど、なにも授けられなかったのも確かだった。


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