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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第104話 ルキアノスの指導は苛烈を極めた

「で、うまくいきそうなのか?」


 レオニダイオンに戻ってくるなり、マリアがセイに尋ねてきた。

 だが、セイはマリアとことばをかわすことなく、そのまま椅子に座り込んで円卓につっぷした。

 無理もない——。

 ゾーイはその様子を思い出しながら、セイにすこし同情した。


 ゾーイが馬たちを手なずけているのを見て、やってきたルキアノスにゾーイは訊いた。

「ルキアノスさん、この子たちの名前はなんと言うのですか?」

「名前か……。あるにはあるが、とても不吉な名前を与えられていてね」

「不吉な?」

 セイが馬のからだを撫でながら、ルキアノスのほうをみた。

「あぁ、一番外側が『輝く馬』ラムポーン(Λάμπων)、隣はリーダーの『速い馬』ポダルゴス(Πόδαργος)、その隣が『黄金の馬』クサントス(Ξάνθος)、そして一番内側は『恐るべき馬』ディーノス(Δήμος)だ」

「どうして不吉なんです?」

「ギリシア神話に出てくる『ひと喰い馬』とおなじ名前だからな」

「そうか……。よろしくポダルゴス、ラムポーン、クサントス、そしてディーノス」

「ほう、セイどの、もう名前を覚えたのかね」

 ルキアノスはセイの記憶力に驚きの声をあげた。


 だが、セイが手綱を握ると、初心者とは思えない手綱さばきに、ルキアノスはさらに驚かされて驚嘆の声をあげた。

「ほんとうに初めてなのかね。おそろしく筋がいい……」

 ゾーイの横でルキアノスはその感動を隠そうとはしなかった。


 が、のどかな会話がかわされたのは、そこまでだった。

 セイが未練の力(リグレット)を使って見事に戦車を操ったせいで、ルキアノスは勝機をみいだしたらしい。そこからのルキアノスの指導は苛烈を極めた。彼はセイに嫌というほど折り返しの練習を繰り返させた。セイは粘り強く指導に従い、数時間ずっと手綱を握り続けた。


 だが壮絶なボクシングの試合をしたあとでやるような練習ではない——。


 その熱のこもった指導にゾーイは思わず『ルキアノスさんはスパルタの出身なのかい?』と聞いてしまったほどだった。だが、ルキアノスは小アジア南部のカリア地方の出身だということだった。

「わたしはヘロドトスに戦車の操縦を教えてもらったのだ。おなじカリア地方の出身ということでね」

「ヘロドトス?。あたいが知っているのは、『歴史(ヒストリエ)を書いた歴史学者だけだけど?』

「あぁ、そのヘロドトスだよ。彼はずいぶん昔にだがテーベの代表として、『イストミア大祭』に出場して優勝しているからね。かの大詩人ピンダロスもその勇気を讚えているほどのすぐれた御者だったのだよ」


 セイは日が暮れるまで、そのヘロドトス仕込みの馬の操縦術を叩き込まれた。おかげで手の皮は剥け、脚はふらふらで立っているのもやっとだった。


「マリアさん。セイさんを寝かしてやっておくれよ」

 ゾーイが円卓につっぷしたまま、寝ているセイを見ながら言うと、スピロもそれに続いた。

「えぇ。さすがのセイ様でも、今日はあまりにも過酷でしたわ。疲れをとってもらわねば、明日の戦車競争に差し障ります」

「は、オレたちは精神体だぞ。物理的にからだが疲れているわけじゃない」

 そうマリアがふたりの言い分に疑義を唱えたが、会話を横で聞いていたエヴァがピシャリと言った。



「マリアさん。さっきまで大口を開けて寝ていたあなたがいうセリフではありませんよ」


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