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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第95話 この男こそが希代の人たらしアルキビアデス

「タルディスの容体はどんなものなのかね」

 ふいにイアトレイア(医療施設)によく通る声が響いた。

 自己嫌悪とともに、悪魔の正体に考えをめぐらせていたスピロは、その声につられて思わず顔をあげた。

 耳をあたたかく包み込むような安心感のある太い声色、それでいながら思慮深さに裏打ちされたよどみない滑舌。一度耳にしただけで、人を惹きつける魅力のある声の主を目で追った。

 その姿を目にしたとたん、スピロは一瞬、美の神が舞い降りたのかと錯覚した。ひと目見ただけでだれもが二度見せずにはいられない整った容姿。『知性』の(よろい)をまとい、そのうえから『品位』のベールを羽織(はお)っているかのような典雅な身のこなし——。


「おぉ、アルキビアデス」


 ソクラテスが手を挙げてその男を呼んだ瞬間、スピロはハッとしておおきく目を見開いた。ふいに夢見心地から目が覚める。

 アルキビアデス——?。

 瞬時になにか不安な気持ちが胸にこみあげてくる。


 アルキビアデスはソクラテスの姿を目にすると、うれしそうな顔ですぐに近寄っていった。プラトンは苦虫を潰したような顔でソクラテスのそばから離れ、トゥキディデスとアリストパネスは明らかな嫌悪感を顔に浮かべてから、横たわるタルディスの元にいった。顔を覗き込を装って顔を合わせないようにしているようだった。

 近寄ってきた二人に気づいて、タルディスを診察していたヒポクラテスが顔をあげたが、アルキビアデスの姿を認めると、こちらも治療に専念している風を装いはじめた。

 だが、スピロはただただ驚いていた。

 

 アルキビアデスのすぐ横にセイがいる——。


 どういうこと——?。

 スピロの頭のなかに、大量の疑問符が一斉投入された。なにかがおかしい、と直感したが、なにが、どう、どうしておかしいのかわからない。

 疑問符の束がスピロの脳のなかで徐々に、『知恵の輪』のように絡み合いはじめた。だが考えれば考えるほど、容易にははずれそうもない形状につながっていく——。

 そんな気分がせきあげてきて、気持ちだけが焦っていく。


「スピロさん、セイさんと一緒にいるあの殿方はどなたです?」


 エヴァがスピロの思考を邪魔するように訊いてきた。

 一瞬だけイラッとしたが、エヴァの声色にせがむようなニュアンスが感じられて、スピロははっとした。

 エヴァがうっとりとした目でアルキビアデスを見つめていた。あの男はイアトレイア(医療施設)に現れるやいなや、エヴァを(とりこ)にしようとしている。


 あたりまえだ。自分も惹きつけられそうになっているのだ。


 この男こそが希代の人たらし、アルキビアデスという男なのだ——。

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