表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
186/932

第74話 聖なるオリンピックを汚すつもりか

「このガキ、どこから出てきやがった」


 突然飛び出してきて、エウクレスのパンチをクロスアームブロックで防いだ少年をみて、観衆のひとりが叫んだ。

 

「タルディスさんを殺させはしません」

 セイはからだの前で拳をかまえたまま言った。パンチをとめられたエウクレスが、セイを睨みつけた。

「おい、小僧。きさま、今なにをやったかわかっているのか?」

「えぇ、わかってます。タルディスさんの命を救いに来たんです」

 そのことばを近くで聞いていた観衆たちは、(たけ)り狂った。

「ふざけるな。タルディスはまだギブアップしてねぇんだ。試合は続行中だよ」

「タルディスには気の毒だが、死んだとしても試合中の事故さ。あきらめな」


 なにかに取り憑かれているとしか思えないことばが人々の口からついて出る。

 何者かがこの場の感情を支配している——。


「審判!。タルディスは気絶している。試合をとめ……」

 

 その時、ふいに背後から強烈な殺気がセイを襲った。それが何かわからなかったが、セイはそれをかわした。いや、かわしたなどという生半(なまなか)なものではない。瞬時に地面に腹這いになる勢いで倒れこんだ。


「おいおい、小僧。タルディスを救いにきて、殺されるんじゃないぞ」

 あたりで(あざけ)りを含んだ笑い声がドッとはじける。

 セイはあわてて体を反転させると、自分を殺そうとしてきたものに目をやった。


 エウクレスだった。セイが審判に目をむけた一瞬の隙に、彼がパンチをふるってきたのだ。さきほどソクラテスを突き飛ばしたり、スピロに手をだそうとしたものとは、あきらかに違う本気のパンチ——。彼が繰り出してきた剛腕は、本気でセイの頭をたたき割ろうとしていた。

 エウクレスがセイを鋭い眼光で見おろしてきた。まるで今、避けられたのは手ごころを加えたから、と言わんばかりの余裕めいて口元をゆるめていたが、眼からは殺意が消えてなかった。


 こいつが悪魔か——?

 だが、あまりにも直接的すぎる。いや、それまでも毒や暴漢、そして槍投げの競技中のアクシデントと、充分あからさまだったのだ。

 なくはない——。


 セイは足を跳ねあげて『跳ね起き』すると、エウクレスをにらみつけた。

「危ないじゃないですか。素人にむかって」

「このガキ、そこをどけ!そいつは俺の獲物だ」

「そうはいかない。タルディスさんは気絶している。もう、勝負はついたはずだ」

「貴様、聖なるオリンピックを汚すつもりか」

 エウクレスはセイの額に自分の額がつきそうになるほど近づけて、猛獣のような形相で威圧した。


 セイは思いがけず射竦(いすく)められそうになる自分に気づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ