第55話 ヒポクラテスとの対話2
「あの病気はインフルエンザと呼ばれているのかね」
「えぇ、しかもたちのわるいことに、ぼくらのいる『未来』でもいまだに猛威をふるって、多くの人の命を奪っています」
「『未来』にはわたしが考えもつかない医学が発達しているのではないのかね?」
「えぇ、とんでもなく進歩しています。でも、人類は目に見えない「ウイルス」にいまだに振り回されています」
「『ウイルス』?。「毒液」がかね?」
「あぁ、そうか。この『ウイルス』という言葉もあなたが用いたのでしたね」
「あぁ。わたしは『病気を引き起こす毒液』という意味で用いているのだが……」
「その『毒液』の正体は、ほかの生体にとりついて自己増殖する極微小な感染性の構病原体です」
「それなら『蜂蜜』を摂取すると良い。『蜂蜜』には殺菌、消炎、保湿、創傷治癒作用があり……」
「『プロポリス』ですね」
「なんと、プロポリスを知っているのかね。『都市を守るもの』という意味で命名したものなのだが、この『プロポリス』にはいろいろな病気から、からだを守ってくれる力があるのだよ」
「えぇ。栄養豊富で抗酸化作用があるので、ぼくたちの世界では『ポリフェノール』として知られています」
「ポリフェノール?。なにかね、それは?」
「からだを病気から守る『抗酸化物質』ですよ。あなたが薬として使用していた『赤ワイン』もそのポリフェノールが含まれてるんですよ」
「やはり、そうなのかね。ワインは薬の中でも最も有益なものなのだよ」
「ぼくら未成年はお酒が飲めないのでわかりません。でも、あなたは後世につながるおおくのことを医学界に残されました」
セイはスピロの言いつけ通り、さらにヒポクラテスの偉業に言及した。
「それだけではありません」
ヒポクラテスがおどろきの目をセイにむけた。
「あなたは治療に『ハーブ』の香りや煮出した液を使ったり、温かい『海水』の風呂に入ることを推奨していましたね。それ以外にも『泥』をからだに塗って、体内に蓄積された毒素や老廃物を排出したり、からだを本来あるべき状態に戻そうとする『胎盤』の復調作用を利用する方法など、常にあたらしい治療法を考案していましたよね」
ヒポクラテスは顔を輝かせた。
「そんなにもよく知ってくれているとは。なんとも嬉しいことではないか」
「ええ。だって、2400年後の未来でも、あなたが発見したいくつもの治療はずっと受け継がれているんですからね」
「おお、そうか。それはさぞや未来の医療に役立ったのだろうね?」
「いいえ」