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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
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第54話 ヒポクラテスとの対話1

「ヒポクラテスを褒めあげる?」


 スピロからヒポクラテスへのアプローチを教授されたセイは、その基本的な方向性にとまどいを隠せなかった。2400年後にまで名を残す名医、いや『西洋医学の父』とまで言われた偉人に、なにを今さら褒めることがあるのだろうか。


「ちょっと待ってくれないか、スピロ。ヒポクラテスさんは自分も他人も律するとてもストイックな人だよ。あの手のタイプの人は褒められても、単純に喜んだりしない。むしろ逆効果のような気がするよ」

「えぇ、そうでしょうね。わたしもおなじタイプなので、それはわかります。単純に称賛してくる相手には身構えますし、見当違いなことを褒められれば、その場でその人物の底の浅さを看破して、そのあとは口もきかないですから。セイ様、あなたにもその傾向がおありでしょ?」

「う、うん……。否定はできないな。ただ『すごいな』と言ってくるような人は苦手だ」

「ですが、おそろしいほどピンポイントで一点に注目されたり、自分がひそかに自負していることを見抜いてきた場合はどうでしょう?」

 セイはそう言われて、はたと思い当たった。

「あぁ、確かに……。ぼくは前に友人に言われて、本当に嬉しかったことがある」

 スピロはにっこりと笑って言った。

「でしょう?。だったら、誰だってそうです」


 だが、本人を目の前にすると、どう切り出していいかわからなかった。

  

 威厳のある容姿もさることながら、元々寡黙なのだろう。ここにきた経緯や警護をかってでる理由を説明している間も、ほとんどことばを発することもなくセイのことばに耳を傾け続けていた。おかげで、ヒポクラテスが『警戒』したのか『油断』したのか、まったく判別できずにいた。

 セイは本日も会場とされているスタディオンにむかいながら、どこからアプローチするか思案していた。ふっとあたりからなにかを焦がした嫌な臭いが喉をついた。近くで食事を勝手気ままに調理している連中が、なにかの獣の肉を焦がしたのだろう。

 おもわず咳がでた。


「セイ殿、風邪かね?」

 セイは口元をおおいながら「いえ、ちがいます」と言いかけて、すぐに言い直した。

「はい、そうなんです。すこし熱もあるようです」

「熱が……?。それはいけない。もしかしたら……」

「冗談です。インフルエンザじゃないですよ」

 セイはにっこりと笑って、ヒポクラテスに向き直った。

「インフルエンザ……。それは……なにかね」

「ヒポクラテスさん、あなたはその病気に出くわしたことがあるはずです。あなたの著書にそれが記録されているそうですから」

「記録……?。おぉ、もしかしたら今から10年ほど前におきたあの奇病か?。突然多数の住民が、高熱を出し、震えがきて、咳がさかんにでる病気に罹った……」

 ヒポクラテスは肩をすくめた。

「でも、なぜか、あっという間に去っていった……」


「えぇ。たぶんそれです……


 それが人類史上はじめて報告されたインフルエンザの記録です」

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