第47話 このミッションを失敗させるわけにはいかない
「スピロさん。わたしは、このミッションを失敗させるわけにはいかないのです。だから何者かにだし抜かれたのが、むかついて仕方がありません」
「で、どうするつもりですの?」
「捜査の基本ですわ。いつ、どこで、だれかどうやったかを絞り込みます。まずはいつからです」
「いいでしょう。でもなぜあなたが?」
スピロが刺々しい質問がエヴァに投げかけられた。が、マリアがあいかわらずの鋭い勘で、エヴァの意図を見抜いてきた。
「は、エヴァ。オレはわかるぜ。オマエ、こっちに来てスピ口におんぶに抱っこで仕事してなかったからな。手ぇ抜いてたことを反省してんだよな」
マリアなりの罵り口調のエールだ。
「マリアさん。ずいぶん口さがないですね。でも、まぁ、あたらずとも遠からずです。男の人の裸に馴れなくて、つい……」
「ですけど、エヴァ様、そういうのは得意なわたくしにお任せください」
「けけっ、スピロ、こいつをみくびるな。えげつない謀略や一方的な交渉は、本来エヴァの十八番だ」
「マリアさん。そうあからさまに言われては私だって傷つきますよ」
「は、エヴァ、どの口が言う。そんなグラスハートな奴が、セネカを脅して軍を蜂起させて、反乱を先導するような真似できるかよ」
「本当ですか?」
スピロが思わず立ちあがって、心底驚いた目をエヴァのほうに向けてきた。エヴァはすこし謙遜したように肩をすくめてみせた。
「ええ、まあ、それがネロを倒すのに一番、自然で手っ取り早いと思いましたからね。セネカさんを焚きつけて、ガイウス・ピソ元執政官を引きずり出しただけです」
「なるほど。だてにエリート・ダイバーの認定を受けていない……、ということですね。いいでしょう、ご協力を惜しみません」
スピロはそれを聞くと、感心しながらゆっくりと座った。
「では、あらためてスピロさん、あなたの見解を聞かせてください?」
「わたくしもヒッポステネスはないと思っています。マリア様と同意見です。おそらく、あのウィニング・ランの混乱のさなかに『囁き』があったと……」
スピロが静かに、だが、確信をもって言った。
「わたくしがタルディス様の体から、ジョー・デレク様の魂が抜け出さないと気づいたのは、そのいわゆる『ウィニング・ラン』を終えて、審判長から正式のリボンを頭に結ばれている時でした」
「じゃあ、そのあいだに、タルディスに近づいたヤツはみんな容疑者ってかぁ」
マリアがいくぶん投げやりに声をあげた。
エヴァはそのときのことを子細に思い出そうとした。