表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
15/932

第15話 ぼくらは四百年以上も未来の日本から来ました

「おい、信長。そこの女と話をさせろ」

 マリア・トラップだった。

 だれもがその存在そのものに気圧(けお)されているはずだったが、マリアだけは、そんなことはどこ吹く風とばかりに、いつもの調子で話かけた。

「そこの稚児、御屋形様になんという口を利く」

 家臣のひとりが腰の刀の柄に手をやりながら、大きな声で叱責した。子供であってもすぐに斬る、という決意が見て取れた。


「今、口を開いたそこのヤツ、おまえ誰だ?」

「わたしは、森蘭丸。信長様の……」

「おい、おまえ、次、オレを稚児呼ばわりしたら、叩き斬るぞ」

 先ほどから、散々、稚児呼ばわりされていて、マリアの沸点はかなり低くなっているようだった。初対面にもかかわらず、すでに臨戦態勢。あまり良い状況とは言えない。

「マリア、もめ事はあとまわしで頼むよ」

「おい、セイ、貴様だって今さっき、ひと悶着起こしたんだ。オレにもすこし暴れさせろ。不公平だ」

 そう言うなり背中の鞘に収めていた、大剣をぬっと引き抜き、目の前に身構えた。


「な、なんと、あんなおおきな剣を!」


 驚きの声を真っ先にあげたのは、信長だった。小さな女の子が、大男でも振り回せるかという剣を、いともたやすく扱っている姿を目の当たりにして、興味が湧いたらしかった。

 先ほどまでの信長の覇気の宿った眼力は、嘘のように消えていた。代わりに、珍しいものを見つけて、好奇にきらきらと煌めく少年のような目があった。


「おい、その(ほう)たちは何者だ?」

「ぼくは夢見聖。そして、こちらがマリア。そしてエヴァ……」

 そこまで聞いたところで、信長が背筋をすっと伸ばした。

「マリアだと……。そちらはキリシタンか?」

「違います」「そうだ」

 セイとマリアが同時に違う返事をした。マリアがそのまま会話を続けた。

「オレはキリシタンだ。だが、信長、マリアっていう名前にいちいち反応するな。こんな名前は世の中にはごまんといる」

「それよりもセイの話をちゃんと聞け。時間がない」

 

 マリアに諭されて信長がセイの方に向き直った。

「で、そちはどこから来た?」

「異世界から来ました」

「異世界から?。異国ではないのか?」


「いいえ。ぼくらは四百年後の未来の日本から来ました」

「ぼくらは、もうすこししたら、あなたがこの本能寺で死ぬことを知っています」


「な、なにぃ?」

 さすがの信長もそのことばに驚いて声が少々裏返った。


「明智光秀軍に謀反をおこされてね」


 それを聞いて信長が黙り込んだ。家臣たちにいたっては、(ひざまず)いたまま言葉を発せないどころか、身じろぎもできないほどの緊張感に包まれていた。(かしづ)いた男たちの顔から汗がふきだし、顎にむかってつーっと伝い落ちて行くのが見える。


「それは本当か?」

 気力で自分の唇を引き剥がすようにして、信長が尋ねた。

「あと数分もすればわかりますよ」

 セイはあくまでも事務的な口調で言った。

「ならば、そなたは、なにをしに来たのじゃ」

「それは、まだわかりません」

「わからない?。それはどういうことじゃ」


 セイは家臣たちの輪の端のほうで、柱に身を隠すようにしてこちらを覗いている若い女性のほうを指さした。信長をはじめ、そこにいるものが一斉に彼女に目をむける。


「あの若い女性が、あなたをどうしたいと思っているか……」


 そのとき、マリアが意地悪げな口調で、補足説明をいれてきた。

「そうだな。信長、おまえの運命はあの女次第だ。あの女が親指を突き上げれば、命を助けてやる。だが、親指を下にむけたら、今すぐこいつの首を刎ねてやる」

「マリアさん、この日本ではそんなジェスチャーはありませんよ」

 エヴァがマリアの間違いをただしたが、マリアはそんな小言など聞いていなかった。手にしていた大剣の刃を、ドンと地面に突き立てると、親指を下向きにしてから言った。


「オレはぜひ、親指を下にむけて欲しいところだな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ