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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
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第12話 さて、どちらから切り刻まれてぇかな?

 兄、森蘭丸の言いつけで、弟の森坊丸は、末弟の力丸をつれて、寺の門の鍵の解錠にむかっていた。

 兄の蘭丸はすでに十八歳となり、そろそろ『元服』をとの声もあがっており、小姓の役目から退くこととなっていた。そうなれば、一歳違いの坊丸、二歳違いの力丸がその跡目を継いで、小姓の筆頭として、御屋形様の身の回りの世話にあたらねばならないと考えていた。なので、今、兄、蘭丸より言いつけられる命は、いずれ自分の身になること。進んで引き受けていくべきと、心に期していた。

 しかし、その覚悟がまだできていない末弟の力丸は、坊丸にむかってすこし不満そうな声をあげた。 

「まったく兄者は、我々、弟に瑣末な仕事ばかり申し付けるのぉ」

「力丸、これも大事な仕事じゃ」

「なにゆえ、御屋形様は『上賀茂神社』に参ると?」

「秀吉様の毛利討伐はあとひと息とのことじゃ。その陣中見舞いの前に必勝の願掛けとは、御屋形様は心の高ぶりを静められたいのだろう」

「しかし、こんな朝、はようなくても……」

「いてもたってもいられんのだ。毛利を討てば、いよいよ天下統一じゃからな」

 そう言いながら、坊丸と力丸は寺の正面の門を両側に押し開いた。


 その門の入り口に見慣れない人物たちが立っていた。

 坊丸はおもわずぎょっとして、手をとめたが、力丸は腰元に手をあて、すぐにも抜刀できる構えにはいっていた。

「何者?」

 坊丸は誰何(すいか)しながら、そこにいる者たちの姿に目をみはった。


 真ん中にいる男は自分とおなじ年ごろに見えたが、見慣れない服装をしていた。上から下まで真っ黒な出で立ち。このような目立たぬ地味な格好をするものはひとつしか心当たりがない。

「貴様、忍者か?」

 そう尋ねたが、すぐに両隣りにいる人物のほうをみて、自分が間違えていることに気づいた。両側には驚くほど華美な装飾が施された衣服を着た稚児と、どこかの『家紋』らしき花の絵柄があしらわれた華やかな色の衣装をきた女性がいた。

 力丸もそれに気づいたらしく自分の見解を言ってきた。

「兄上、忍者があんな目立つ出で立ちの女子(おなご)と稚児を連れ立ってること……」


 そのやりとりを耳にして、幼女がドスの利いた声をあげた。

「おい、誰が稚児だぁ。おまえら叩き斬るぞ」

 その迫力のある声色に坊丸はすっと刀を引き抜いた。力丸のほうに目をむけ、警戒を促すよう目配せをする。力丸もその意図を感じ取って、ゆっくりと鞘から刀を引き抜いて、正面に構えた。

「お、やる気か?」

 幼女はそう言うと、右腕を正面に突き出して、「待った」の合図でもするかのようにその小さな手のひらを開いた。と思うまもなく、その手のまわりに『雲』のような(もや)が集まりはじめた。どす黒く、重々しい陰鬱な空気をまとって。

 手のなかに『暗雲』が垂れ込めている——。

 森坊丸は幼女の手の回りで起きている『妖術』に見入られていた。真っ黒な雲が幼女の手を完全に覆った。が、一瞬にしてその雲は霧消し、その手にはいつのまにか剣が握られていた。

「な、なんと!」

 思わず驚愕のことばが、口をついて出た。

 それは見たこともないような巨大な刀だった。自分たちのもつ細身の刀剣とは似ても似つかない形をしていた。刀は『(まさかり)』のような幅広で分厚い刃がついており、祭祀で使われる『矛』のような形をしていた。遠めからでも、あれを振り回すことは容易ではないと感じるほど、重々しくみえる。

 幼女はその刀の柄をぎゅっと握ると、正面に身構えた。その切っ先はぴくりともぶれない。

『ばかな……』


「さて、どちらから切り刻まれてぇかな?」


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