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ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜  作者: 多比良栄一
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
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第67話 さあ、わたしにとどめを!

 エヴァはもう一体を見つめたまま、銃口を下に落として、その先を床につけた。固い大理石の床のうえを這わせるようにしてその先で円弧を床に描いた。


 たちまち、そこに描かれた円のなかに黒雲が飛来し、内部で小さな稲妻が走った。エヴァがその上に手をかざすと、自動小銃の砲身が突き出し、ゆっくりとせりあがってくる。そこに出現した銃の砲身に指を這わせ、銃把(じゅうは)をつかむと、エヴァは両小脇に二丁の銃を抱え、左右別方向に構えた。

 自分の左右両方向からじりじりと距離をつめてくるモンスターに銃口がむく。


 エヴァは二丁同時に銃弾を放った。この銃弾ごときでは倒せる敵ではないことはわかっていたが、これ以上近づけさせるわけにはいかない。部屋の中央に転がっているる『ロケット・ランチャー』に目をやる。


 あれでなら、一瞬で片がつく——。

 だが二体で先ほどのように室内をとび跳ね回られたら、手の(ほどこ)しようがない。銃弾を浴びせ倒してでも、あの『球体』への変形を阻止するのが先決だ。


 スポルスはどうしてる?。


 あの子は自分の人生を変えるために、セイやわたしたちが命を賭して戦っていることを知った。だから自分の人生を阻むものを除外することに迷いはもうないはずだ。

 だが同時に主の教えを知り、憎むべき相手を寛容することも学んだ——。


 最後の最後の局面でどちらのスポルスが決断を下すのか——。

 エヴァはそのとき、すぐ間近で付き添ってあげられない、今の状況ががもどかしかった。

 この二体を早く倒さねばならない。

 

 が、一瞬、弾幕がとぎれた。

 ミスった——。

 エンドレスで撃とうとしていたのに、集中力が散漫になった。

 

 二体はその隙を見逃さなかった。クルクルっとからだを丸めると、一瞬にして二個の『球体』に変化し、あっと言う間に部屋のなかを飛び跳ねはじめた。


 一個でも手を焼いたのに!。


 一個目の球体がいきなりエヴァの鼻先をかすめた。それを危うく避けたが、背後から足元を(すく)われた。エヴァのからだがふっと浮きあがり、そのまま床にたたき落とされた。

 したたかに背中を打ちつけ息がとまる——。

 痛みに呻きそうになったが、すぐ真上からもう一個の球体が、落下してくるのに気づいて、床を転がって直撃を避けた。球体は顔の真横で跳ねあがったが、ぎりぎりで避けることができた。エヴァはすぐさま跳ね起きると、床から自動小銃をひろいあげ、照準などかまわず弾丸を空中にぶちまけた。

 どこから襲ってくるか追いきれないのなら、当てるとか、止めるとかは考えても仕方がない。とりあえず、敵二体の動きの稼働範囲を狭められれば、それだけでいい。


 エヴァはスポルスがいる方角を背にして、見える限りの空間に向けて、扇状(おおぎじょう)に銃弾を巻き散らした。

 これが思いのほか奏功(そうこう)した。

 一個の球体は銃撃によって軌道を狂わせた。もう一方は勢いをうしなった。天井からそのまま床に、ドサリと落ちた。

 二体はそのまま球形から人間の形状に戻って、その場にたちあがると、ぐおぁっと雄叫びのような咆哮(ほうこう)をあげた。


 エヴァはため息をつくと、自分の頭をぺしっと叩いて、ぺろっと舌をだした。


 わたしとしたことが、こいつらがただの傀儡(くぐつ)だということを忘れていました——。


 エヴァは部屋の中央に転がっていたランチャー・ミサイルまで走っていくと、それを足元に確保した。

 すぐにエヴァは手に持っていた小銃をひっくり返すと、銃口に近い砲身部分を掴んだ。エヴァは念をこめながら、小銃を自分の正面で扇風機のように回しはじめた。

 ぐるぐる描いている円周の一番外周にある銃床の方から、どす黒い暗雲が吹き出しはじめた。それはすぐに円周の外側に広がりはじめ、みるみるうちにその周辺の空間を覆い隠し始める。

 それはまるでドーナツ状の煙の壁。

 だがポッカリと穴が空いた中心部分から、エヴァの姿が丸見えになっている。


「さあ、ペテロニウスさま、ピソさま、わたしにとどめを!」


 二体のモンスターは目の前に現れた黒い煙の壁に戸惑っているはずだ。だが、その壁の真ん中に空いた穴からはエヴァの姿が見えている。ただの黒い煙が辺りを覆い隠しているだけだったが、魂を持たないモンスターにそんなことが理解できようはずもない。


 二体が同時にエヴァのほうへ走りだした、二体同時には通れそうもない狭い穴をめがけて、我さきにと、飛込んでくる。

 縦一列になって二体の体躯(たいく)がかさなった。

 エヴァは足元にあるミサイル・ランチャーをすばやく持ちあげると、筒を肩の上に乗せて構えた。


「ペテロニウスさん、ピソさん。さよならです」


 エヴァがトリガーをひいた。

 筒から飛び出す瞬間、尖端のミサイルがふわっと浮かんでとまって見えた。が一瞬ののちものすごい速度で一直線に飛んでいくと、一列に並んだ二体のモンスターの腹を、続けざまに貫いて、そのからだをばらばらに吹きとばしていた。 

 肉片があたりに飛び散る。


「スポルスさん、やりましたよ」

 声を弾ませて、エヴァがうしろを振り向いた。

 が、その時、エヴァは見てはならないものを目撃した。

 一番思い描きたくない光景——。


 それは小太刀を奪われたスポルスが、ネロに刺されてその場に崩れおちる——

 

 その一瞬だった。


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