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仕事遂行

朝、目を覚ます。

今日もいつも通り起きて仕度をして、仕事に向かう。

聞いている音楽は相変わらず三年前から変わらない、慣れすぎて聞いているのか聞いていないのかもわからなくなってきた。

サキと打ち合わせをして数日たった。

電車を降りて会社に向かうすがら、そういえばそろそろサキの依頼を遂行するのも近いと思い出した。

会社に入ると、すぐにミーティングが始まる。いつも通り今日のスケジュールの確認。

その中でサキの依頼にGOサインが出た。やっぱりと思いつつ準備に入る。

ターゲットの調査はすでに終わっている、後は実行するだけだ。

サキの義母はサキの情報の通り、かなり散財を繰り返していた。

今回はそれを利用することにした。ターゲットはブランド物やアクセサリーに沢山のお金を費やしているのだが、一番費やしているのが夜な夜な通うホストクラブだ。

毎日のように通い、毎回百万単位のお金をホストに使っているのだ。夫が死んで間もないというのに不謹慎な行動だが、こちらとしては都合のいい状況だ。

ターゲットがホストに通うのはもう習慣化されていて、行動パターンが読みやすい。

なにより、毎晩馬鹿みたいに酒を飲んでいるのも都合がよかった。

人がアルコールで死ぬのはよくある話。よくあるからこそ工作も簡単に出来るからだ。

アルコール中毒や酔ったことによる事故死とバリエーションも豊富だ。こんなに毎日飲んでいるのだから、殺人などと疑われることもない。それを鑑みても今回仕事はかなり楽だ。

いつも通り後輩を連れて会社を出る。

実行するのは夜になるから、それまでは準備と他の仕事を並行して行う。

今日も、帰るのが遅くなりそうだとうんざりしながら、仕事にとりかかる。

昼の仕事が終わると、早速サキの依頼準備に入る。

殺しの方法は検討の結果。酔わせた後、不慮の事故を装って殺すことになった。

酔って意識を失ってしまった時、実は上向きで寝るのは危ない、何故なら吐いてしまったとき吐いたものが喉に詰まって、最悪死んでしまうことがあるからだ。

今回はそれを装うことにした。吐くまで酔わせ、酔いつぶれたところで寝かせてわざと吐かせることで窒息死させるというシナリオだ。

毎晩飲んでるから、急性アルコール中毒で死ぬのは不自然だし、落下事故を装うにしてもターゲットの周囲に都合のいい場所がなかった。

だからターゲットが今、現在一人で住んでいる状況も利用する形で。一番不自然ではない方法を選んだ。


「えーっと、俺がホストに変装して近づくんでしたよね?」


派手なスーツに着替えながら、後輩はそう言った。


「そう、俺も近くでサポートするから。上手いことたのむな」

「はーい」


トイレであらかじめ準備していた服に着替える。今回殺しを実行するのは後輩に決まった、後輩は顔がいいし、態度もいかにも軽いチャラいホストそのものだ。これ以上の適任はいない。

そろそろ、後輩たちにも殺しの仕事をしてもらわないといけなかったから丁度良かった。

ちなみに、俺も一応それっぽい格好をしたのだが、全く似合わなかった。


「また、余計なことするなよ。今回は特に体に傷や痣一つ付けてもダメだからな」

「わかってますって」


そう言って後輩は軽く頷く。

寡黙な方の後輩も一応それっぽいスーツを着ているが、こっちもあんまり似合ってない。いかついSPにしか見えない。


「じゃあ行くか」


その言葉を合図に、俺たちは現場に向かった。

場所は華やかな繁華街だ。似合っていない服も、現場に行くとなかなか馴染んで見えるから不思議だ。

仕事は順調に進んだ。やっぱりというか結局時間は深夜に及んだのが難点だったが。

後輩がさりげなくテーゲットに近づき、さらに酔いがまわる特別な薬を飲ませ店から連れ出す。そして介抱を装い家に行くと、そのまま計画通り殺し、仕事はなんとか遂行することができた。


「おつかれさまっす。疲れたーもうちょっとでゲロをかぶるとこだった……」


珍しく疲れた表情の後輩が、そう言って現場から戻る。俺も近くで待機して確認もできた。

問題も起こらず危なげなく終われて一息つく、この感じなら、今後二人でやらせても大丈夫そうだなとひとりごちる。


「おつかれさん。とりあえず着替えろ」


準備しておいたワゴン車に乗りこみ服を変える。一応偽装のためだ。


「後は、報告書を書いて終わりっすかね」

「おう、今日は遅いから、明日作って提出してくれ。後で俺がチェックしとく。俺の方は依頼人に報告で終わりだな……」


着替えながら、明日のスケジュールを確認する。

狭い車で着替えはつらい、しかも男三人も詰め込まれた車だ暑苦しいにも程がある。


「了解っす」


と言って寡黙な方の後輩も頷く。

着替え終わると、今度はその車からは降りて今度は移動だ。

ワゴン車は違う部署の人間が担当している。


「今日はどうだった?」


初めて殺しを任せたこともあって、聞く。


「そうっすね。予定通りできたと思いますけど、やっぱり殺しとしてはつまんなかったっす」

「お前らしいな。でも、問題もなかったし。そろそろ、慣れるために二人だけでやってもらおうかって、上司と話してたんだ」

「マジっすか」


後輩は嬉しそうに言い、もう一人の寡黙な方は黙って頷く。


「まあ、早いところ慣れてもらわないとだから。まあ、でも引き続き俺のサポートもしてもらう予定だから徐々にだけど」

「まあ、そうっすよね……」

「浮かない顔だな。そういえばこの間言ってた、やり方を変えるって案はどうしたんだ?上手くできそうか?」


この間、言っていたもっと人を増やして分担したらどうかって話だ。


「実は、なかなか上手くいかないんすよね……」


そう言って、後輩は難しい顔をして唸る。


「お、ちゃんと考えてたのか。偉いな、やっぱ難しいだろ?」

「そうなんすよね。それで最近は、フリーになるのもありかなって思いってるんっすよね」

「え?そっちかよ……」


うちの会社では、辞める時は死ぬときなのだが、一つだけ例外的に死なない方法もある。それはフリーの殺し屋になることだ。


「結局自分の満足にいくようにしたかったら、それも有りかと思って」

「まあ、たしかに自由度も格段に上がるし。お前にも向いてそうだな」


自由奔放な後輩が考えても無理はない。

今までも、何人かフリーになった殺し屋はいる。

そして、どうしても人手が足りない時や、難しい殺しの時は外注としてこちらから、依頼することもある。だからフリーになるのも悪い案ではないのだ。


「先輩はフリーは考えたことないんですか?」

「俺はいいかな……フリーになったら、今以上に雑務が増えそうだし、なんでもやらなきゃならないからな。それに比べたら会社の方が、分担が出来てるから楽だし」

「そうなんすよね……」


やはりそれがネックになっているのか、後輩は渋い顔をする。


「まあ、実績を積めば評価も高くなって仕事も増えるし、成功すれば金の入りも桁違いらしいからな。俺の先輩の中でも成功して世界的飛び回ってる人もいるから」

「ああ、そういうの聞くと夢が広がるっすよね」


フリーになるという事は言葉の通り自由ではあるが、ハイリスクハイリターンだ。

かなりの腕を欲求されるし、自信がないと出来そうにない。

とてもじゃないが無理だ。

俺は、特別欲しい物も、何かしたい願望も、成し遂げたい野望も無い。この職についたのも就職活動が面倒だったからだ。

ちなみにこの仕事は友達とゲームセンターで遊んでいる時にスカウトされた。

まさかこんなにしんどいとは思わなかったが、でも過去に戻っても、結局同じ選択をしそうな気がする。


「まあ、そっちはそっちでお前には向いてそうだけどな。でも今やめられるのは、結構困るな……」

「いや、流石にフリーになるにしてもすぐは無理っすよ。もうちょっと考えます」


疲れた顔をしながらそう言うと、後輩は慌ててそうフォローしてきた。


「頼むぞ……」


そんなことを話していたら、準備していた別の車に着いた。これで一度会社に戻る。

会社に着車を置いたら、今日は終了。


「じゃ、おつかれ」

「おつかれさまっす」

「お疲れ様です」


そう言って別れた。

しかし、も深夜もとっくに過ぎている時間だ、タクシーで帰ってもそんなに寝る時間はない。幸いなことに明日は遅くに出勤でもいいことになっているので。まだ寝られるのが不幸中の幸いだ。

最近、時間が不規則なのがきつくなってきた。昔はそうでもなかったのに、体は確実に老いたことを感じて、暗澹たる気持ちになってくる。

簡単にシャワーを浴びて歯を磨くと、一息ついてテレビをつける。

今の時間帯はテレビショッピングかマイナーすぎる番組しかやってなくて天気予報とニュース番組を見たらすぐに消してしまった。下手に見すぎると寝られなくなりそうだ。

ベッドに入り、電気を消す。

目をつぶり、明日の予定を思い出す。

明日は今日ほど遅くはならない。なんなら早く帰れるかもしれない。

そう思いいたって。じゃあ、明日は久しぶりにゲーム機を起動させようかなという気になった。

少し、気になるゲームも発売していたから、帰りに買ってプレイするのも悪くない。今回も最後までクリアできるかわからない。正直できる気はしないが。

でも、ささやかながら楽しみが出来て、少し明日が楽しみになった。

ちょっと浮かれてSNSにそのことを書くと、俺は『おやすみ』と呟いて目を閉じた。

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